したがって、値段によって皿の色を変えている回転ずし店などは、回転ずしの本分をわきまえない、言語道断の存在と言うべきなのである。

 しかも、この手の店は、赤や水色の皿が100円台で、銀色や金色の皿は300円、400円するといった色彩差別的な価格設定をしている場合が多い。回転ずし的絶対安心絶対平等の精神からはほど遠い存在と言わねばならないだろう。

 あれもよくない。あの、特別に注文した寿司が流れてくると、ピーピーとブザーが鳴り出すやつだ。

 回転ずしの本分はあくまでも安心にある。ところが、あのピーピーが始まると……。

「あっ来た、うまく取れるかな。取れなかったら、もう一周してくれんのかな」

「取れなかった皿を下手の人が取っちゃった場合、会計はどうなんの? 大センセイについちゃうの?」

 心は千々に乱れるのである。こんな緊張と不安の高まりの中で食べる寿司が、うまいわけがない。

 だがしかし、現代の回転ずし界では、色彩差別的な色違い皿を採用し、ピーピー音鳴らしまくりの店が幅を利かせているのだ。

 この悲しむべき現実に対して、大センセイ、無駄と知りつつささやかな抵抗を試みている。特段の理由がない限り、同じ色の一番安い皿しか頼まないのだ!

 店によっては〆鯖と玉子と納豆巻きと本日のサービスぐらいしか食べられないこともあるが、これぞ、回転ずしを愛でる人間の流儀であると確信している。

 あれっ、流儀だって……。

週刊朝日  2018年11月16日号

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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