アルバムの幕開けは「アンダー・ライム」。エネルギッシュで勢いのあるロック・ナンバーで、ぶ厚いサウンドにはザ・ビートルズのエッセンスも。コステロの歌声も熱い。『ナショナル・ランソム』収録の「ジミー・スタンディング・イン・ザ・レイン」の続編にあたる曲で、落ちぶれてカムバックをはかる主人公と若い歌手の楽屋での顛末を歌っている。コステロは“ちょっとしたみすぼらしい物語”と明かしている。表題の“ライム”にはアルコール、スポットライトに、“墓”の意味もあるそうだ。

 2曲目の「ドント・ルック・ナウ」はバカラックとの共作バラード。“裸でいる私を見ないで”と語る主人公。持ってる服は“高価な毛皮だけ”というあたり、何か訳ありな感じで、想像をかきたてられる。主人公の心情を表現したコステロの“濃い”歌いぶりが印象深い。

「フォトグラフズ・キャン・ライ」もバカラックと共作したバラードだ。娘の父への思いを歌った曲。バカラックが弾く端正なピアノをバックにしたコステロは“遠い目”がうかがえる冷静な歌いぶり。

 もう一曲、バカラックとの共作で、作曲でもコステロとコラボした「ヒーズ・ギヴン・ミー・シングス」では、バカラックは演奏に参加せず、スティーヴ・ナイーヴがピアノを担当。ストリングスのアレンジはコステロ自身だ。ファルセット交じりの感情のこもった歌いぶりに圧倒される。

 キャロル・キングとの共作による「バーント・シュガー・イズ・ソー・ビター」は99年以来、ライヴで歌われてきたものの未録音だった。60年代のポップ・ソウルを思わせるアップ・テンポのナンバーで、女性コーラスが加わると初期スティーリー・ダン風な趣に。夫に愛想をつかし、独り身になった主人公が新しい恋を求める話だ。ホーン・セクションの演奏が主人公の不安と期待を反映しているのが面白い。

 キャロル関連では、彼女をモデルにした映画『グレイス・オブ・マイ・ハート』への提供曲「アンウォンテッド・ナンバー」がある。60年代のモータウンの趣を持つ軽快なナンバー。ただ歌詞は、主人公の女性が彼の子を身ごもってシングル・マザーになる、という物語だ。

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