アメリカから毒ガス兵器の専門家カイル・オルソン氏をお招きしたときには年末になっていました。カイル氏は詳細に検証した結果、「松本の事件は、テストとして松本を選んだだけ。テストを行ったからには必ず本番がある。それは東京以外にはない。地下鉄、新幹線、野球場などの閉鎖空間が標的になる」との分析でした。彼の鋭い分析は翌年3月19日に「カイル・オルソンの松本サリン事件リポート」という記事となって英国サンデー・タイムズに掲載。そしてその翌日、東京で地下鉄サリン事件が起きたのです。

 私たちは再びカイル氏に来日してもらい、番組出演を次々に依頼しました。教団の「科学技術省」トップだった村井秀夫氏と外報部長だった上祐史浩氏との直接対話も実現。その中で村井氏が「私たちはハステロイを使っていますが……」と漏らしたんです。その瞬間、カイル氏の顔色がさっと変わりました。ハステロイとは、サリンを精製するときに使用する特殊合金です。この一言は、オウムがサリンを作っていた証左ともいえます。この発言のせいなのか、真相はわかりませんが、ほどなくして村井氏は刺殺されました。

 この一連の報道で私と私の家族は執拗な脅迫を受けました。松本智津夫元死刑囚の逮捕が完了するまで、家族全員で都内のホテルに避難し、防刃防弾チョッキを着て局に通ったほどです。一方、番組の視聴率は20%に届くなど、視聴者からは圧倒的な支持をいただきました。

 その後もさまざまな事件報道に携わり、取材スタッフには「まずはマイクを突き付けない取材をしなさい。挨拶、世間話などを通して人間関係を作ることが大事だ」と指示しました。他社が引き揚げた後も、1時間余計に残って地道に情報を集める。まるで「捜査一課長だな」と笑われましたが、これはほめ言葉だと思っています。私はスタジオから司令塔として、真相に迫る。そんな仕事ができるようになりました。

――司会を務める「世界ふしぎ発見!」は放送33年目に突入。講演などもこなす多忙な日々だ。

 人生は予想外の連続。子どものころ、父が私に示唆してくれたように、周りの人が、自分では思いもしなかった適性を見つけてくれることもある。内なる声に忠実に、外からの声には柔軟に。できることなら次の東京オリンピックも、サービス精神旺盛にお伝えしていきたいですね。

(聞き手/浅見裕美子)

※週刊朝日2018年8月31日号