翌8月20日、調査団はヘリで現場に降り立った。

<調査官がボーイングの専門家に隔壁の破壊面の型をとってほしいと頼んだ。彼は「隔壁は墜落で壊れたのが明らかだから、時間の浪費だ」と依頼を拒否した>

 破壊面の型を電子顕微鏡で見れば、疲労があったかどうか確認できる。ボーイングはそれに同意しなかったわけだ。さらに、

<ボーイングの別の専門家は爆発の兆候を探すために隔壁を試薬でふいていた>

 つまり、爆弾テロの可能性を疑っていたわけである。たしかに事故直前の6月、エア・インディアのジャンボ機が爆破テロで墜落していた。しかし手記は記す。

<爆発の証拠がないことは明らかだった。疲労を認めないために、ボーイングのチームはできることすべてをしているように見えた>

 そして、ボーイングの頑なな態度からプレッシャーを感じる調査官の心境も率直につづっている。

<しばしばボーイングと当局の対応がそうであったように、私たちはボーイングの思うようにさせるべきだろうか。それとも調査官としてここに送り込まれた仕事をすべきだろうか。結論は明らかだった。真実追究に徹しようと決心した>

 調査に加わった日本の航空専門家はこう証言する。

「ボーイングと米国の調査官が、事故原因をめぐってこれほど対立していたとは知りませんでした。当時はジャンボ機は墜落しないという安全神話があったので、ボーイングもそうした思い込みをもとに、他の原因を探していたのでしょう」

 米国側がなぜ修理ミスに気づき、ボーイングがどう反応したのかについては、これまで謎に包まれてきた。そのため「ボーイングとNTSBが組んで、設計ミスを隠蔽するため、修理ミスを原因にしたのではないか」といった"陰謀説"すら流れた。

 だが、事実は逆で、航空事故の調査経験が乏しい日本側が解明にてこずるなか、「修理ミス」が原因だったと事実上立証したのは、米国の調査官たちだったわけだ。

「もし彼らがボーイングに抗していなければ、日本側だけで修理ミスを原因と立証できたかどうか」

 前出の専門家も驚きを隠さない。

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