また、嘉田氏は大規模ダム建設を優先させてきた政策も問題視する。

 ダムは一定規模の水害を防ぐ効果はあるが、巨額の税金がかかり、効果が出るまでに何十年も時間がかかる。安く、早く、確実にできる堤防強化や河川改修が後回しにされてきたという。

「倉敷市で氾濫した小田川について、国は『水位低下に向けた工事をする直前だった』と言うが、住宅ができるときにやっていないといけない。ここにもダム建設を行う大手ゼネコンの利権を優先する、人命軽視の政策があったと思います」(嘉田氏)

 11年に起こった東日本大震災以来、国や自治体は防潮堤の建設などハード面の防災だけではなく、ハザードマップ(被害予測地図)を使った避難などソフト面の対策に力を入れている。今年に入り東京都や群馬県など各地で水害リスクを公表するなど、ハザードマップ作成に向けた取り組みが進んでいる。

 こうしたハザードマップを積極的に活用するべきだが、限界もある。

 災害情報学を専門にする静岡大学の牛山素行教授によると、04~17年の土砂災害による死者・不明者の73%がハザードマップの危険箇所の範囲内で被災。さらに、15%が危険箇所から近い場所で被災していた。

 88%が土砂災害の危険箇所周辺で被災しており、ハザードマップが有効だということがわかる。牛山教授は「土砂災害の危険箇所は地形でだいたい決まるので、危険箇所を指定しやすい」という。

 他方で、水害のほうは状況が異なる。04~17年の河川の増水や洪水による死者・不明者の66%がハザードマップの浸水想定区域の範囲外で被災。範囲内は18%、範囲から近い場所の被災が16%だった。

「洪水の浸水想定区域は大河川でまず作業が進みますが、中小河川は数が膨大なため、作業が進みにくい。このため特に中小河川では地形的に洪水の可能性があっても、浸水想定区域として表示されないケースがあります」(牛山教授)

 今回の大雨ではハザードマップの想定を上回る被害も出ている。

 広島県府中町の榎川では、流木などにより川がせき止められ氾濫。約1万1千世帯に避難指示が出た。役場によると腰の高さまで浸水したという。町のハザードマップを見ると、被災した地域は0.5メートル未満の浸水が想定されており、予想以上だったことがうかがえる。

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豪雨に備える策はあるのか?