企業に手厚く、労働者に冷淡。経済3団体共催のパーティーに出席した安倍首相 (c)朝日新聞社
企業に手厚く、労働者に冷淡。経済3団体共催のパーティーに出席した安倍首相 (c)朝日新聞社
数値は橋本健二・早稲田大教授『新・日本の階級社会』(講談社現代新書)から引用 (週刊朝日 2018年7月20日号より)
数値は橋本健二・早稲田大教授『新・日本の階級社会』(講談社現代新書)から引用 (週刊朝日 2018年7月20日号より)
数値は橋本健二・早稲田大教授『新・日本の階級社会』(講談社現代新書)から引用 (週刊朝日 2018年7月20日号より)
数値は橋本健二・早稲田大教授『新・日本の階級社会』(講談社現代新書)から引用 (週刊朝日 2018年7月20日号より)

 安倍政権は6月末、働き方改革関連法を成立させた。非正規労働者の待遇改善のため、「同一労働同一賃金」を掲げる一方で、長時間労働を助長する「高度プロフェッショナル制度」を押し込んだ。だが、働く人の格差拡大に歯止めがかけられず、新・カースト社会が到来していた。

【ピラミッド図で見る】あなたはどの階級?資本家階級~アンダークラスに分類された新・カースト社会とは?

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 穏やかな表情とは裏腹に、口を衝いて出る言葉は重たいものだった。

「野垂れ死ぬ覚悟はできています。預貯金はゼロ、年金や国民健康保険の保険料も払えない。病気になったときにどうするか。いまは、老後の不安も直視しないようにしている。考えるとうつになってしまうからです」

 東京都練馬区在住の藤野雅己さん(49)は現在、引っ越し業の日雇い労働をしている。このほか、大工の業務請負の仕事が不定期に入ってくる。それでも月収は、平均して20万円前後にしかならない。以前は30万円以上稼いでいたこともある。朝6時に自宅を出て引っ越しの仕事に向かい、その後、建設現場で深夜まで働いた。月に40件もの仕事を掛け持ちして、毎日の睡眠時間が3、4時間だったことも。体はとうに悲鳴を上げていた。藤野さんが続ける。

「引っ越し業者のトラックに乗るとき、血圧チェックがあるのですが、いつも上は170くらいあります。片頭痛に悩まされ、痛風の発作もたびたび起きています。保険証がないから病院にかかれませんが、派遣労働者は仕事をいくつも掛け持ちし、無理してでも働かないと生活できないのです」

 藤野さんはもともと東京の新宿や銀座などで、バーテンダーとして働いていた。店に正社員として雇用され収入は安定していたが、15年前にうつ病を患って辞めた。以来、派遣の肉体労働に従事するようになった。

「引っ越しの仕事も長くなり、若い正社員に仕事の段取りを教えることもあります。それでも、賃金は正社員のほうがずっと上。やりきれなくなります」

 非正規社員の賃金は正社員の6割程度にとどめられており、ワーキングプアの問題が露見して久しい。かつて、日本は「一億総中流」の社会であると、人々は信じて疑わなかった。だが、オイルショックで高度経済成長が終わりを告げ、「中流」意識は解体。1980年代初頭から格差の兆しが見え始める。80年代後半のバブル期からは、新卒ですぐには就職せず、フリーターになって非正規で働く若者が増えていった。バブル崩壊とその後の就職氷河期を経て、いつのまにか正社員が激減した世の中になっていた──。

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