旅先でもよく飲んだ。落語会が終わって打ち上げ。閉店すると店を変え、そのうち「じゃ、宿に戻っておわぃ~ん!」と部屋飲み。なんとなく寝て、翌朝は朝食で「ねぃ~ん!」と朝酒。

 帰りの空港のレストランでまた「どうぃ~ん!」と飲む。飛行機に乗り込み、まだまだ飲む。隣り合わせじゃないからやれ助かったと思ったら、前のほうから声が聞こえる。「あのねぇ~ん! お姉さんっ! わたしの後輩で一之輔ってぇのが飲み足りないみたいでぇ~ん! もし良かったらお席を替わってねぃ~ん! もらぇ~ますかぃ~ん!」。お姉さんが私のほうへ飛んできて「早く替わってくれ!」という目をしていた。まさかのウィンウィン状態。羽田に着くまでワインの小瓶を何本空けたか……。「小腹がすいてなぃ~ん?」と、羽田のレストランでまた一杯。「そろそろ行くかぃ~ん?」と帰るのかと思いきや、「浅草付き合わない? ねぃ~ん?」。師匠は年がら年中そんなかんじだったから、もちろん身体にいいはずがない。4年前に60歳の若さでお亡くなりになった。そんな『日本代表』。機会があれば、動画でその芸をご覧頂きたい。まさに『日本代表』だから。『日本代表』はもっと生きててくれなきゃダメですよ、師匠。ねぃ~ん。

週刊朝日 2018年7月6日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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