また、感染した場合の症状のうち、腹痛や下痢は多くの細菌やウイルスで共通している。腸管出血性大腸菌の場合、これらに加え、名前のとおり腸管から出血して血便が出る。重症化すると、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳炎といった非常に重い合併症を起こして命に関わることがある。ノロウイルスでは吐き気や嘔吐が強くあらわれ、体力が低下した高齢者などの場合、嘔吐物をのどに詰まらせたり、誤嚥性(ごえんせい)肺炎を引き起こしたりして、やはり命に関わることがある。

「これらの症状がみられたら、どちらの場合もまず受診して医師の指示をあおぐことです。一般の人では、自覚症状で原因物質を見分けるのは難しいでしょう。下痢や嘔吐で水分が失われるため、経口補水液などで十分に水分を補給することも忘れないでください」(小川氏)

 一方、食中毒の原因となる細菌やウイルスの種類にかかわらず、食中毒予防策として小川氏がすすめるのは、「つけない・増やさない・やっつける」の3原則である。

 原因物質は手を介してうつることが多いため、「つけない」ためには、調理前・トイレ後の十分な手洗いや、食品や調理器具の消毒などが重要である。調理器具の消毒で、次亜塩素酸ナトリウムはどちらにも有効だが、エタノールはノロウイルスには効果が不十分な場合がある。「増やさない」ためには冷蔵庫・冷凍庫を適切に使い、増殖しない低い温度にしておくこと。「やっつける」は食品の十分な加熱だ。十分な加熱の目安として、腸管出血性大腸菌には「75度で1分以上」が推奨されているのに対して、ノロウイルスには「85~90度で90秒以上」。小川氏は次のように強調する。

「ノロウイルスは、食品中で増殖しないため、『増やさない』対策は効果がなく、ほかの二つ、とくに『つけない』ための手洗いを徹底させることが重要です。指先や指と指の間などを意識しつつ、石けんで二度洗いするような手洗い習慣を身につけてほしい」

 O157、ノロウイルスの食中毒を防ぐには、O157は初夏から初秋にかけて、ノロウイルスは冬季を中心として、ともに年間を通しての予防が大切だ。

(文・近藤昭彦)