■外国の医師たちとも治療法について議論

 選手から直接相談を受けることも多いというが、そのときに自身が柔道をやっていてよかったと思うこともしばしばだ。

「ひとつは受傷機転――つまり、どうやってケガをしたのかがわかるということですね。柔道をやっていない人が聞いてもなかなかわかりにくい点を理解できるところはいいかなと思います。また、競技特性を生かした治療選択ができるということもスポーツドクターのいいところ。柔道であったら、軸足なのか、刈り足なのか、つり手なのか、引き手なのか、それによってベストの治療選択をするようにしています」

 心に残っているのは、「野獣」こと松本薫選手がロンドン五輪で金メダルを取ったときのこと。

「彼女がジュニアのころからずっと見ていて、手術も担当し、苦労をした過程を知っていたので、そこから復帰して五輪での金メダルには感慨もひとしおでした。もちろんどの大会でも、選手が復活する姿を見ると、やっていてよかったと思います」

 現在は、イギリスやフランスの医師などとも、外傷治療についての議論を行っている。「将来的には、重症外傷を起こさない、予防するためのルールやシステムづくりなどにも貢献できたらいいですね」

紙谷 武/愛知県出身。1999年宮崎医科大学医学部卒。2008年北京オリンピック、12年ロンドンオリンピック、16年リオデジャネイロオリンピック柔道日本代表選手団ドクター。自身も講道館柔道六段の柔道家。地域医療機能推進機構東京新宿メディカルセンター整形外科勤務

(文/志賀佳織)

※『AERA Premium 医者・医学部がわかる2018』から抜粋