ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動するミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
『恥じらい』は『権利』よりも大事(※写真はイメージ)『恥じらい』は『権利』よりも大事(※写真はイメージ)
 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「女人禁制」問題を取り上げる。

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 そろそろケチがつき始めるだろうと予想していた『土俵・女人禁制問題』。よもやこんな形で露呈するとは。長いこと伝統やしきたりの名のもとで成り立ってきた相撲界の概念や性質が、ここへ来て現代社会のそれと照合される時がついに来てしまった感じです。特異性を正して常識的にするというのは、裏を返せば『当たり障りのない平凡なものになる』ことでもあります。八百長や暴力は放っておける事案ではありませんが、土俵の女人禁制に関しては果たしてどうでしょうか。無論、此度のような人命に関わるケースで、あの杓子定規なマニュアル対応は『バカのひとつ覚え』に他なりませんが、過去の価値観に基づく流儀の名残をある程度留めておくこともまた『歴史の伝承行為』として必要な気がするのです。

 かつて『不浄な存在』とされていた女性は、『神聖な場所』である土俵には上がれなかった。この価値観が今の世の中に踏襲されるのは明らかに間違っています。しかしながら文化や宗教観に由来する性の『区別』と『差別』を混同し、すべて因習的に捉えた上に権利を主張するのはいささかナンセンスではないでしょうか。大相撲以外にも、歌舞伎や祇園祭、岸和田だんじり祭など、伝統的禁忌が残っているものはありますし、世界遺産でもある沖ノ島のように女人禁制はおろか男性でも一般人の上陸はほぼ不可能という場所も存在します。反対に奄美や沖縄などでは『男性よりも女性の方が霊的に優位』とされ、男子禁制の霊場があるといいます。このような『しきたり』や『過去の観念』を守ることによって、現代におけるそれらのオリジナリティやバリューを際立たせ、有り難みをより明確にしているのも事実です。

 
 で、土俵の女人禁制ですが、やはり時代錯誤なしきたりなのでしょうか。建前として掲げておくだけでも、誰かの権利を制限し傷つける可能性があるのでしょうか。土俵に対する私の個人的なイメージは、『女は上がってはダメ』よりも『純然たる男しか上がれない』という非常にファンタジックなものです。もっと言えば『まわし一丁で裸になるのも厭わない男』でなければ入れない世界。よって私の中では『ミッツ・マングローブは土俵に上がることを遠慮しなくてはならない』と解釈しています。私(体も心も男性=オス)が純然たる男子なのか否かは別として、男の自分ですら入って行けない『超・男の世界』という妄想的な結界が、『相撲』をより魅力的に感じさせてくれているのです。

 数年前にしたロケで、土俵に上がるシーンがありました。もちろんやんわりと頑なにお断りさせて頂いたものの、周りには「私を男扱いするな」的なメッセージとして受け止められてしまい困惑した想い出があります。私としては、たとえ自分が男で土俵に上がる資格があったとしても、女装している以上、そこは慎ましく伝統への尊重と配慮を示したつもりだったのですが、そんな奥ゆかしさは昨今なかなか伝わり難いようです。ともすれば「オカマ差別を受け入れ、自ら助長しているのと同じだ」と言われかねません。世の中、粋や洒落がどんどん通用しなくなっています。私にとって土俵は『男湯』と同じ。そして、この『恥じらい』は『権利』よりも大事です。だからと言って『混浴』なんて以ての外ですが。

週刊朝日 2018年4月20日号

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ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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