「ステッピング・ストーン」では、勢いのある2ビートで邁進していくバディのスネアに呼応し、ジミもスピーディーなギターを展開。泣きのフレーズが随所で聞かれる。甘美な愛を見つけるまで“転がって わめいて つまずいて 泣き叫んで 愛するだけの ローリング・ストーン”と愛を求める切実な思いを歌い上げている。

 以上の3曲を聴くと、3人の共通言語がブルースであり、その進化形の具現化にジミが意欲的だったことがよく分かる。

「パワー・オブ・ソウル」はフュージョン的な志向がうかがえ、BOGやエクスペリエンス時代とは異なる音楽展開。演奏、サウンドはゆったりとしていておおらかだ。「センド・マイ・ラヴ・トゥ・リンダ」は未完成に終わった曲だ。デモにあたるジミのギターの弾き語り、バンド演奏など、残された三つの音源をつなぎ合わせている。

 ジミが生んだバラードの傑作「エンジェル」のデモの一つである「スウィート・エンジェル」も収録されている。ジョニー・ウィンターとのセッションで、ギター・スリムの曲に取り組んだ「シングス・アイ・ユースト・トゥ・ドゥ」は既発表ながら編集が改められている。

 生前にはレコード化されていなかった「ヒア・マイ・トレイン A カミン」は、ライヴで演奏され続けたので、ファンにはおなじみの曲。ジミ、ミッチ・ミッチェル、ノエル・レディングの3人による緊張感あふれる演奏が展開される。うねるギターの音色やフレイジング、ワイルドな演奏は驚異的で、ジミのギターの凄さを再認識させられる。

 ジミがスティーヴン・スティルスと共演した2曲「ウッドストック」と「20ドル・ファイン」も、本作での目玉の一つだ。2人はモンタレー・ポップ・フェスティヴァル以来、親交を温め、セッションを重ねてきた。

 69年の9月、スティーヴンはジョニ・ミッチェルが書いたばかりの新曲「ウッドストック」を携えてスタジオに現れた。ジミも前年にカナダでジョニに会い、感銘をうけていたことから、すぐさま録音に取りかかった。その興奮を物語るような演奏が展開される。「20ドル・ファイン」はスティーヴンの曲。「ウッドストック」に刺激されたような曲調や演奏は、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングを彷彿とさせる。

 ラストを飾る「チェロキー・ミスト」は、ミッチのドラムだけをバックに、ジミがエレクトリック・シタールの幻想的な音色を奏で、組曲風の構成になっている。

 本作は、ジミがデビューから亡くなるまでの約4年の間、精力的に録音を続け、新たな音楽性の追究に余念がなかったことを物語る。改めてジミの創造力と存在の大きさを認識させられる作品である。(音楽評論家・小倉エージ)

●『ボース・サイズ・オブ・ザ・スカイ』=日本盤CD(ソニー・ミュージック SICP―5667)
●同=輸入盤国内仕様アナログLP2枚組(同 SIJP―63~64)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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