実際、「繰り下げ」を選んでいる人は、厚生労働省の資料によると、新たに年金をもらい始める人では、2015年度は2%にすぎなかった。

 今後は65歳超の雇用は増えていくのが確実だから、そんな高齢で働く人の目を引こうとしてか、政府は現行0.7%の増額率を70歳超は引き上げることも検討する。年金実務に詳しい社労士の三宅明彦さんが言う。

「増額率を上げれば、利用者が増えると見ているのでしょう」

 そこで、三宅さんに増額率を予測してもらい、それぞれについて年金がどれぐらい増えるのかの一覧表を作ってもらった。下記の数字をご覧いただきたい。現行の60歳代後半の繰り下げと、制度拡大が検討される70歳超の繰り下げだ。

「繰り下げの選択肢の上限を75歳としてありますが、政府はそこまで言ってなくて、これはあくまで予想です。増額率については、『0.8%』から『1%』まで三つのパターンを考えてみました」

 結果はご覧のとおりだ。仮に75歳まで繰り下げた場合は、どの増額率でも190〜202%と、65歳からもらえる年金額の約2倍になる。老齢基礎年金で見ると、満額は年間「77万9300円」だから、「約148万~157万円」になる。

 ちょうど2倍だと、10年、85歳で元がとれる。70歳までの現行の繰り下げでは、追いつくまでに12年弱かかるから、それよりも短縮されている。何やら魅力的にも見えてくるが、

「やみくもに増額率を引き上げてしまうと、今度は『お金持ちのために、有利な運用商品を国が提供するようなものだ』という批判が出てくるでしょう。すると、1%はやりすぎの感があります。落ち着きどころは『0.8%』くらいでしょうか」(三宅さん)

 自分が繰り下げた場合の年金額に興味がある人は、毎年、誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」や、日本年金機構のホームページにある「ねんきんネット」を見てほしい。50歳以上なら、現在の加入状況が60歳まで続いた場合の「年金見込額」(年額)が記載されているから、それに増額率をかければよい(あくまで現時点での概算額)。

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