SP後の会見に臨む羽生。ファンらは、この笑顔を待ち望んでいた (c)朝日新聞社
SP後の会見に臨む羽生。ファンらは、この笑顔を待ち望んでいた (c)朝日新聞社
リンクに投げ込まれたプーさんのぬいぐるみの数々。こうやってファンらは「支援」してきた (c)朝日新聞社
リンクに投げ込まれたプーさんのぬいぐるみの数々。こうやってファンらは「支援」してきた (c)朝日新聞社

 平昌冬季五輪で金メダルを獲得し、劇的な復活を果たした羽生結弦(23)。リンクで圧倒的な存在感を見せつけたのは、本人のみならず、演技後にはプーさんなど大量のプレゼントを投げ込む熱狂的なファンたちだ。アイドルの追っかけよりすごい、その生態を追った。

【写真】この後どうなる?リンクに投げ込まれたプーさんたち

「ユヅ君のために、これまで何個、プーさんを買ったかわかりません」

 ファン歴4年という酒田信代さん(仮名・61・主婦)は、こうほほ笑む。羽生を追いかけ、世界中の大会を飛び回ってきた。その費用は、ゆうに400万円を超える。

「ユヅ君に出会う前は、趣味もなくて全然お金を使わなかったんです。夫は若い時からゴルフ三昧。だからその分、今私がユヅ君のために使っても夫には何も言う権利はないんです」
 
 酒田さんは14年に初めて観戦ツアーに参加してから、世界が変わったという。ツアーの1人客は大幅に追加料金がかかることもある。そのため、1人客同士で相部屋に申し込むうち、似たような境遇のファンと出会えた。しだいに、ツアーを通じてファン仲間が増え、現在は、2~4人の仲間との“遠征”が多くなった。
 
 コミュニティーが広がると同時に濃い情報が入るように。大会の詳細とオフィシャルホテルが発表されると即、近隣のホテルを予約するのは当たり前。発表前でも、選手の宿泊場所を仲間と予想して、いち早く宿を取る。羽生と同じ空気を吸っていると思うと、体温がぐっと上がるのを感じる。

「ユヅ君を追いかけている時は、嫌なことも何もかも忘れて楽しい。子どもがいない分、ユヅ君は世界で活躍する自慢の息子。世界よ、もっと(私の)ユヅ君を見て!という思いです」

 ジュニア時代から10年来の羽生ファンという坂口緑さん(仮名・40・会社役員・独身)によれば、追っかけには体力も必須という。

 大会にもよるが、朝の公式練習まで見られるオールイベントチケットを購入すれば、早朝から夜まで約16時間にわたって会場付近で過ごす例も珍しくない。全試合見るとなれば、これが5日間にわたって続く。
 

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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いったい、何が彼女らをそこまで駆り立てるのだろうか。