オーナーの危惧がますます強まったのは、15年5月のこと。篠崎氏はそれまで九州から電車で通っていると話していたが、自宅を横浜市内に移したといい、この時はシルバーのメルセデス・ベンツで店舗を訪れたという。



「小型のモデルでしたが、新車。『よっぽど儲かっているんだね』と冷やかしたら、『足が必要になったので』と。この少し前から『はれのひ』の店舗展開を始めていて、コンサルの方はやや片手間的になっていた。創業から間もない時期は内部留保を貯めるべきなのに、少し成功したらいきなり高級車を購入するというのは、危ういなと感じました。それまでは結婚歴はあるが独り身だと言っていたが、最近になって20代の女性と結婚して子供もできたと聞きました。赤ちゃんの写真を見せられたこともあります」

 5年間でノウハウを十分に吸収したこともあり、オーナーはコンサル契約を終了させた。ところがそれから約半年も経たない15年10月、思わぬ事態が起きた。オーナーが店舗を構えるのと同じ地域に、篠崎氏が『はれのひ』の支店をオープンさせたのだ。

「こちらには事前に何の連絡もありませんでした。長年の顧客だったのに、契約を打ち切った途端に同じ地域にライバル店として出店してくるというのは、普通の感覚ではあり得ない。義理人情がない人なんだと思いました。この一件以来、彼とは連絡をとっていません。向こうにしてみれば、うちのコンサルをしながら、地域事情などの情報を吸収することもできたわけです。また、引き抜かれたのかどうかまではわかりませんが、こちらの従業員が2人、『はれのひ八王子店』に転職しています」

 ところが、程なくして左うちわだったはずの「はれのひ」の苦境が伝わってきた。従業員への給与の遅配や仕入れ先への支払いの滞納、家賃の滞納による店舗の閉鎖などの噂が聞こえてきたのだ。心配している矢先に起きたのが、1月8日の“成人式の悲劇”だった。

「騒ぎになっていると聞いてびっくりして、うちでも被害者に余っていた振袖を貸してあげました。その後、『はれのひ』に移った従業員と電話で話したら、悔しさで泣いていた。経営状況などは伝えられず、ただ売り上げを上げろという指示しかなかったらしい。うちなどは通年で振袖以外の呉服も販売していますが、『はれのひ』は成人式と卒業式の時だけが勝負。それなのに駅ビルなどの一等地に構えた店舗の賃料は通年でかかり、テレアポ要員の人件費もある。リスクのある業態だったのではないかと思います。篠崎氏はノウハウは持っていたが、経営者としてのセンスは足りなかったのではないか。成人式の当日に行方をくらませたことも普通の感覚では考えられませんが、うちへの仕打ちな どを思うと、不思議ではない話だと思います」

 結局、オーナーが感じた篠崎氏への危惧は最悪の形で的中してしまったことになる。新成人に残した傷跡は、ビジネスの損失以上に大きなものだった。
(本誌・小泉耕平)

※週刊朝日オンライン限定記事