2年ぶり、通算42枚目となるフル・オリジナル・アルバム『相聞』を出した中島みゆき
2年ぶり、通算42枚目となるフル・オリジナル・アルバム『相聞』を出した中島みゆき
中島みゆき『相聞』
中島みゆき『相聞』

 今年最後の“知新音故”。何にしようかと迷っていたら、先月11月の新譜ながら、紹介しそびれていたとっておきの一枚があった。中島みゆきの『相聞』だ。

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『相聞』での一番の話題は今年4月から9月まで放送されたテレビドラマ『やすらぎの郷』の主題歌となった「慕情」。『やすらぎの郷』は倉本聰の脚本で、出演者は名優ぞろい。ユーモラスでシリアスな会話、奇々怪々の展開が話題を呼んだ。

 中島みゆき本人も倉本とともに出演。車椅子に乗った倉本の面倒を見る看護師役だったか、セリフはないものの、ニヤりと笑いを浮かべていた。

 聞くところによれば、「慕情」をつくるにあたり、1回目から最終回までの台本をすべて読み込んだという。作詞、作曲に1年かかり、この曲を中心にすえたアルバムが生まれることになった。

 そのタイトル『相聞』は、日本最古の和歌集である「万葉集」の三大部立てである“雑歌”“挽歌”“相聞歌”のうち、主に男女の恋愛を詠んだ“相聞歌”に由来する。

「慕情」では、“もいちどはじめから もしもあなたと歩きだせるなら もいちどはじめから ただあなたに尽くしたい”というリフレインが印象的だ。

“時に情(なさけ)は無い”と、歩んできた道のり、過去を振り返りながら、後悔の念よりもむしろ残された時間、“今”と“これから”をいかに生きるか。そうした明快な歌唱から、前向きな姿勢がうかがえる。

 同じく『やすらぎの郷』の挿入歌「人生の素人(しろうと)」も然り。“くよくよなんてしなさんな 昨日は昨日”と歌われる。

 アルバムの冒頭を飾る「秘密の花園」。賢いはずの人間だけがたどり着けず、“痛みを抱えた動物たちだけが”“にも教えてもらわずに 迷わず向かう”という“秘密の花園”。死期が近づいた象が群れから離れて墓場に向かうという伝説が思い浮かぶ。“秘密の花園”には、美しい風たち、美しい水たち、秘密が秘密に寄り添う森たちがいて、時計が黙り込んでいるところだという。それは天国?

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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