その猫は近所をいつもうろうろしていたのだけど、その日から私は表を出歩くときに猫の目をビクビク気にするようになってしまった。
そしてわが家では犬を飼っていたのだが、犬のエサをその猫がくすねにくるようになった。うちの犬は気が小さかった。エサの時間になると、猫が「ニャー(堂々)」と現れる。犬は犬小屋の陰へ隠れる。決してビビってるという素振りではなく、犬はあくまでも平静をよそおってフラりと「その場を外す」かんじ。でも尻尾がピンと硬くなっているので、ビビってるのは一目瞭然だ。しっかりしてくれ。犬としてのプライドはないのか。
その隙に猫は「イツモスイマセンネ(笑)」と犬のエサを食らう。私はそれを離れたところから無力に眺める。犬は気づいてないフリをしながら、猫にいいようにさせている。完全にマズイ人(猫)に関わってしまったようだ。自分から仕掛けていくなんてとんでもないことだったと気づいても、もうすでに遅い。あれ以来、猫が怖い。
いや、いい猫ちゃんもいます。楽屋仲間の“動物ものまね”の江戸家小猫さんは私と同い年。研究熱心でアフリカまで動物の声を調べにいくらしい。日夜、高座でさまざまな動物の鳴き声を披露して喝采を浴びている。
親子4代続くサラブレッドで、腰が低くて、人柄も申し分なし。でもだ……「もしあの鳴き真似が、まるでデタラメな鳴き声で……我々は、ただ小猫さんの……手の平の上で……いいように踊らされてるだけ……」だったらどうしよう……。
ちょっと想像してみたらメチャクチャ怖いな。それじゃ軽いサイコパスじゃないか……。もちろん小猫さんはそんなことはしてない。変なこと考えてすまん、小猫さん。私が初めて仲良くなった猫はあなただ。これからも仲良くしてニャー。
※週刊朝日 2017年12月29日号