従来のがん治療に「当たりはずれ」があったのは、がんの発生機序に関係なく、臓器や臨床的な進行度のみを手掛かりに闘っていたことによるもの。敵の生い立ちを知ることで、より精度の高い治療が可能になってくるのだ。

 従来のがん治療で用いられる抗がん剤は、臓器ごとのがんに対して効果を持つとされてきたが、がんゲノム医療では、臓器ではなく、がんの原因となっている遺伝子変異に応じて薬を使い分ける。そのため、例えば元は肺がんのために開発された薬が、胃がんの治療に使われる──ということも、現実にあり得るのだ。

 患者のがんが発生した大本の遺伝子変異を突き止める検査が、網羅的がん遺伝子検査と呼ばれるものだ。近年、技術の進歩によって100を超える多くの遺伝子を迅速かつ網羅的に、しかも低コストで検査する「次世代シーケンサー」という機器が開発された。これにより、患者のがん細胞の詳細な遺伝子変異の情報を解析することが可能になり、効果が期待できる分子標的薬の選定につなげられる可能性が飛躍的に高まったのだ。

 しかし、この検査を受けるには、一定の条件がある。

 基本的に検査は臨床試験としておこなわれているが、この試験では、標準治療で「有効な治療法がない」と判断された進行がん、あるいは転移した状態の症例のみを対象とするものもあり、研究の計画書によって違いがある。この場合は、手術や放射線治療、薬物療法など、健康保険で認められている標準治療が可能な段階でがんゲノム医療を受けることは認められていない。

 現在国内では、複数の大学や医療機関が独自に網羅的がん遺伝子検査を導入している。京都大学などのチームが進める「オンコプライム」や横浜市立大学などが進める「MSK-IMPACT」、国立がん研究センター中央病院が進める「TOP-GEAR」、国立がん研究センター東病院などが進める「SCRUM-Japan」など。

 それぞれ独自の取り組みとして進めているが、2018年度から、この図式に大きな変化が予想されている。

 厚生労働省の「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」は17年6月、がんゲノム医療中核拠点病院(仮)を整備する報告書をまとめた。工程表によると、17年度中に中核拠点病院を選定し、18年度から遺伝子検査を先進医療として実施、19年度以降の保険診療を目指すとされている。(ライター・長田昭二)

週刊朝日 2017年12月22日号