田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
田原総一朗「小池百合子氏だけを『袋だたき』にするのは間違っている」(※写真はイメージ)田原総一朗「小池百合子氏だけを『袋だたき』にするのは間違っている」(※写真はイメージ)
 自民党の圧勝という形で幕を閉じた衆議院選挙。ジャーナリストの田原総一朗氏は今回の選挙戦を振り返り総括する。

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 総選挙の結果は自民党が284議席と、当初の予測を大きく破って勝利した。旋風を起こすとみられた希望の党は50議席と惨敗。小池百合子代表から「排除」された立憲民主党が55議席で野党第1党となった。

 そして現在、小池代表がまるで“悪の塊”のように袋だたきにされている。だが、彼女の言動には、しっかりとした根拠があったはずである。

 安倍晋三内閣の支持率が森友・加計疑惑などで30ポイント以上落ちたにもかかわらず、これらの問題を懸命に追及した民進党の支持率は上がらず、7月の東京都議選では自民党につき合うように民進党も惨敗した。反自民党の受け皿の役割を全然果たさなかったわけだ。そして小池都知事の都民ファーストの会が圧勝した。

 そこで小池代表は、民進党が受け皿にならなかったのは保守とリベラルがごちゃまぜで党のイメージが曖昧すぎるためだと判断し、圧勝した自分たちと姿勢が同じ保守議員だけを合流させれば安倍首相を脅かす勢力になれると考えたのではないか。

 民進党の前原誠司代表も、民進党が反安倍の受け皿になっていないことは百も承知で、それが、党のイメージが曖昧であるためだ、ということはわかっていたはずである。

 その意味では、考え方は小池代表と差異はなかったはずで、だからこそ、選挙中、小池批判を一切しなかったのだろう。もしも小池代表にだまされたととらえていたなら、激しく批判したはずである。

 しかし、それならば、なぜリベラル派を合流させなかった理由をきちんと表明しなかったのか。小池代表たたきが激しすぎるので、うっかり話すと損だと考えたのか。今となっては、そうとしか受け取れない。

 前原代表だけではなく、希望の党の候補者の誰もが、その点については口をつぐんだままであった。そこで国民の多くは、民進党にいると落選するから、当選したいためだけに希望の党に移ったのだ、ととらえたのである。あるいは、それが彼らのホンネだったのではないか。

 
 それに、国民の多くは、北朝鮮と米国の緊張が破裂して、被害が日本に及ぶのではないか、と恐れているのだが、そのことを強く訴えているのは安倍首相や自民党の執行部だけで、野党はそれから逃げるように、触れようとしなかった。なぜ、米国なり北朝鮮なりと対話せよ、とでも言わなかったのか。

 また、どの野党もアベノミクスを批判したが、それではどうすべきなのか、という有効な対案を示そうとしなかった。国民の多くは、アベノミクスに満足しているのではない。安倍首相が、経済が好調だといかに強調しても、国民の多くに実感はないはずだ。野党のどの党からも対案らしいものが出てこないので、仕方なく我慢しているだけだ。実質賃金は確実に下がっているのだから。

 今回の選挙は自民党対野党の対決ではなく、野党同士が対立したために、安倍自民党に勝利が転がり込んできた、ということなのだろう。

 それにしても、自民党はおもしろくない政党になった。小泉純一郎政権のころまでは、党内の主流派と反主流派の対立・論争が激しくダイナミックで、その意味では自由で民主的な政党だった。ところが現在は、ほとんどの議員が安倍首相のイエスマンになってしまった。これは、明らかに自民党の劣化だ。安倍首相は、この現状をどう考えているのだろうか。

週刊朝日 2017年11月10日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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