ミッツ・マングローブさんが「森高千里」を語る
ミッツ・マングローブ「進化も退化も感慨もなし。森高千里の『他人事』性の凄み」(※写真はイメージ)
ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「森高千里」を取り上げる。
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42歳・働き盛り。音楽業界にとっても、私はおそらく最後の『ヘビー・ミュージック・ユーザー』世代かもしれません。その役割を果たすべく、コンサートはもちろん、CD、アナログの復刻・再発モノや記念盤、ボックスセットなど、とにかく音楽への消費活動に勤しみながら、『大人になった証』を実感している次第です。
特に今年は『隠れたアイドル豊作年』である87年組のデビュー30周年ということもあり、工藤静香さんのアニバーサリーイベントで仕事させて頂いたり、酒井法子さんと番組でご一緒させて頂いたり、光GENJIに至っては『かーくん』こと諸星和己さんにお願いして『2017年現在の光GENJIメンバー全員のサイン』という、すでに伝説レベルのお宝をもらってきて頂いたりと、職権乱用・公私混同万歳な日々を送っています。
そんな中、森高千里さんのライブに行ってきました。森高さんも『ザ・87年組』です。他の同期たちに比べると若干遅咲き(最初のベストテンヒットは89年の「17才」)でしたが、その後の活躍はアイドル歌手の枠を超え、言わば『アイドル』と『アーティスト』というふたつのビジネススタンスを両立させた初めての女性であると同時に、モーニング娘。を始めとするハロプロ系や、2次元、2.5次元を含めた今のクールジャパン的アイドルコンセプトの原点とも言える存在です。
そう。“森高千里”というのは、昔からどこか『他人事』みたいに歌っている人でした。自作の歌詞に描かれる世界観も『等身大』や『フィクション』というよりも、あくまで『他人事』。作詞やドラムを叩くことで見えた気になっていた『歌手としての自我』も、実はその裏に横たわる『他人事』という“森高”の性(さが)をダダ漏れにさせないための隠れ蓑だったのかもしれません。まさに正真正銘のコンセプト・アイドルにして、時間や感情に流されない超職人。きっとAIやボーカロイドなんて屁でもないでしょう。何より会場を埋め尽くしていた往年の男性ファンたちの熱狂ぶりがそれを証明していました。熟年女性アイドルのコンサートにはあり得ないノンケ男性率の高さでした。彼らは何の躊躇も憂慮もなく、ただひたすら“森高”のかわいさと、当然の不変性に歓喜し夢中になっていたのです。私も当時は普通の男子然としていたので、あまりに変わり果てた自分の姿に唖然としながら、“森高”の『他人事ワールド』に身を任せた2時間でした。
※週刊朝日 2017年10月27日号