そして著名人のエピソードで、もっとも有名なのは、森光子さんが国民栄誉賞を受賞した際、関係者に御礼として配ったのが『桃六』の「どら焼き」だったこと。

 実は、芸能人がよく利用したり、番組プロデューサーが名入りの「どら焼き」を注文したりする店は他にも何軒かあり、いずれまた紹介させていただく。「放浪記」の森光子さん御用達→帝国劇場→ジャニーズの舞台……というのは美しすぎるほど繋がるし、冒頭に記したように「縁起」を重んじれば『桃六』に決まりだ。

 そんな『桃六』が、和菓子同様、一品、一品、律儀に手作りしているのが「桃六弁当」。お煮しめ、肉団子、卵焼きなど、日本人にはおなじみのおかずが、ちょっと濃いめの味付けでギッシリ詰まっている。

 ご飯は、白飯もあれば赤飯もあって、注文の際、選ぶことができるようだ。

 通常、舞台の休憩時間は20~30分。その間にトイレも済ませたいし、せっかくだから、お弁当も食べたい。でも、濃い味のものを食べたら喉が渇くし、ご飯を喉に詰まらせてしまうこともあるかもしれない。でも、『桃六』が幕間に食べる人のことを思い、心をこめているからなのか、そういうことがないような……。『桃六』が選ばれる理由は、「縁起」だけではなかった。

週刊朝日 2017年10月27日号

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山田美保子

山田美保子

山田美保子(やまだ・みほこ)/1957年生まれ。放送作家。コラムニスト。「踊る!さんま御殿!!」などテレビ番組の構成や雑誌の連載多数。TBS系「サンデー・ジャポン」などのコメンテーターやマーケティングアドバイザーも務める

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