田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
ジャーナリストの田原氏は今回の選挙戦に疑問を呈する(※写真はイメージ)ジャーナリストの田原氏は今回の選挙戦に疑問を呈する(※写真はイメージ)
 22日の投開票に向けて各党が舌戦を繰り広げる衆院選。ジャーナリストの田原総一朗氏は今回の選挙戦に疑問を呈する。

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 北朝鮮と米国の緊張状態が危険水域に入り、いつ火を噴いてもおかしくない。日本がミサイルで襲われる危険もある。国民の多くはその予感を強く感じているのだが、安倍晋三首相はなぜかそのことを曖昧にしか語らない。武力行使を起こさせないため、日本はどうするべきなのか。

 今回の選挙戦で、この危機について、小池百合子代表の希望の党を含めて、野党はあまり触れようとしない。まるで、この国の安全保障、つまり国民の生命を守ることに野党はまったくかかわりない、と考えているかのようだ。野党は自民党の、それも国内の政策についてだけ批判をしていればよいと考えているのだろうか。それならば、たとえば小池代表の希望の党は、わざわざ民進党を分断して、多くの議員たちを取り込む必要はなかったのではないか。

 もう一つ、今回の選挙戦で、あらためて感じた疑問がある。

 欧米の国々では、ほとんどが保守党とリベラル党が政権を競い合っている。保守党は経済面では自由競争をうながし、政府は社会に深く介入しない。つまり、小さな政府を志向する。だが、自由競争が続くと貧富の格差が大きくなる。勝者は少なく、競争に敗れて生活が苦しくなる人々が増える。そこで選挙を行うと、リベラル党が勝つ。政権をとったリベラル党がまず敢行するのは、格差を少なくするために規制を設けることだ。そして、競争に敗れて生活が苦しくなった人々を助けるために、社会保障、福祉にどんどん資金を投入するはずである。だが、規制をあまり設けると経済の調子が悪くなる。さらに、社会保障や福祉などに資金を投入すると、財政が悪化する。そこで、次の選挙では保守党が政権の座に返り咲くことになるわけだ。

 
 保守党がよいか、リベラル党がよいかという比較論ではなく、保守党とリベラル党が、かわりばんこに政権をとっているのである。

 それに対し、日本では自民党が保守党である。ところが、保守のはずの自民党が、実は経済面ではリベラル、もっと言えばバラマキ政党なのである。だから、ほとんど自民党が政権を握り、借金が1千兆円以上もできてしまっているのだ。

 ちなみに日本の国民負担率は42.5%で、非常に軽い。イギリスでさえ45%台で、ドイツは50%を超えている。欧州諸国の消費税は20%以上なのに、日本は8%でしかない。国民からあまり税金をとらず、それにふさわしくない社会保障、福祉を行っているため、1千兆円以上の借金ができてしまったのである。

 そこで安倍首相は今回の選挙で先延ばしにしてきた消費税を2%上げると表明した。実は2012年、民主党の野田佳彦内閣のとき、自民党・公明党との3党合意で10%にすると約束していた。それを8%と中途半端にして先延ばしにしてきたのだ。

 安倍首相が表明する以前に、前原誠司氏は民進党の代表選で、消費税を10%にすると宣言している。ところが、その民進党議員の多くを取り込んだ希望の党は、なんと消費税率を凍結すると言い切った。2%上げることに同意した元民進党議員は何と判断しているのだろうか。

 そもそも今回の選挙では、全野党が凍結を主張している。ということは、日本には、いわゆる保守党なるものが存在していないわけだ。国民がそれを望んでいるのだろうか。それにしても、現実からかけ離れた、つまらない選挙になった。

週刊朝日 2017年10月27日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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