「のぞき部屋」という名前の店もあった=伊藤裕作さん提供
「のぞき部屋」という名前の店もあった=伊藤裕作さん提供
低いほうの穴から食い入るように中を見る男性客=伊藤裕作さん提供
低いほうの穴から食い入るように中を見る男性客=伊藤裕作さん提供

 社会風俗・民俗、放浪芸に造詣が深い、朝日新聞編集委員の小泉信一氏が、正統な歴史書に出てこない昭和史を大衆の視点からひもとく。今回は「のぞき部屋」。

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 江戸川乱歩の名作『屋根裏の散歩者』を挙げるまでもなく、他者をひそかにのぞき見るという行為は、しばしば文学のモチーフとして愛好されている。あの小説では、郷田三郎という男が下宿屋の天井板を開けて天井裏に侵入。隣人たちの生活をのぞいていた。

 書くのもはばかられるようなすさまじい狂態も、郷田は目撃する。「天井からの隙見というものが、どれ程異様な興味のあるものだかは、実際やって見た人でなければ、恐らく想像も出来ますまい」と告白。人間の心の底にひそむ欲望や劣情である。

 さて、今回はそんな人間の「のぞき見願望」を逆手に取った風俗店を紹介したい。

 例によって大阪が発祥という説もあるが、証明することは難しい。東京では、昭和56(1981)年の10月末に渋谷駅南口近くにオープンした「のぞき劇場『シアター4.5』」が第1号ともいわれている。

 円形の劇場を取り囲むように、20ほどの個室があったという。各個室には、背伸びして見るような高いところと、寝そべって見るような低いところの2カ所にのぞき穴があった。背伸びするほどの高さ、というのが何とも人間くさい。寝そべって見る、というのも妙なリアリティーがある。

「犯罪ギリギリの臨場感にこだわっていたのです」

 取材した風俗ライターの伊藤裕作さん(67)は説明する。振り返ると、「ノーパン喫茶」という業態が全国の盛り場に広まったのは、この前年だった。素人の女性のチラッと見えるお尻だけでは男たちは満足できなくなっていたのかもしれない。伊藤さんは著書『愛人バンクとその時代』(人間社文庫)にこう書いた。

<もうちょっと奥が見たい。この子のプライベート空間を覗いてみたい。ドンドンと男の覗きたいという欲望はエスカレートしていった>

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