――妻はル・コルドン・ブルー・パリ校を経て、フランスで修業を積む。84年に帰国してすぐ、京橋千疋屋の商品開発部門にヘッドハンティングされた。夫は帰国後にテレビ番組やビデオの映像制作の仕事に就き、多忙な日々を送っていた。

夫:彼女と出会ったのは85年。アメリカ時代の友人の別荘にスキーに行って「お前と同じ海外帰りの女性がいるよ」と紹介された。

妻:その人、私の職場の上司だったんです。

夫:彼女の第一印象はあまり覚えていないんだけど、その翌朝、別荘のキッチンで彼女が前の晩の刺し身の残りがあると言うんです。僕が冗談で「握りだったら食べたい」と言ったら「ああ、できますよ」と、ササッと酢飯を作って握ってくれた。びっくりしましたよ。そこから交流ができた。

夫:でもね、結論から言うと恋愛云々という感じじゃなかったんです。お互いに30歳を超えてたし、恋をして頭がぽ~っとして、という感じじゃなかった。

妻:もちろん彼のことは嫌いじゃなかったけど、理想のタイプかと言うと……(笑)。私はマッチョな人が好きだったけど、彼はガリガリだったし。

夫:僕だってそりゃミニスカートが似合う人がいいとか、あったよ。でも話をするうちに彼女が「家族がほしい」「子どもを持って、自分のチームを作りたい」ということをしきりに言うようになった。

妻:私はそのころ自分の遺伝子を後世に残したいとか、自分がせっかく得た知識を伝えていく、ということにすごく興味があったんです。それが母性本能なのかもしれないですけど。

夫:「この人、遠まわしに〝結婚して〟って言ってんの?」と思ったけど、なるべく聞こえないふりをして。

妻:あははは。

夫:でも、そのとき思った。二人ともそれなりの恋愛経験を経て、惚れた腫れたで一緒になっては何十年も夫婦としては暮らせないだろう。子どもや家族がほしい、という考え方で結婚するのも、ありなんじゃないか、と。

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