妻:うちは両親が離婚しているので、それを見ていたこともあったかもしれない。「好き合って結婚したのに、どうしてその時の感情を忘れてしまうんだろう?」って。だから、縁あって結婚したならば、その関係を長く続けていきたいと思ってお互いやってきたよね。

夫:それでもう30年ですからね。お互い「好き」という意識よりも「続けたい」という意識が強かった。まったく質の違うものを比べてるなって話だけどさ。

妻:あはは。

夫:昔はね、「たまたま彼女の発情期、繁殖期と僕に会った時期がぶつかったんですよ」ってよく言ってたんです。そしたらある人が「加藤さん、あのね、人間に繁殖期や発情期ってないんですよ」だって(笑)。

――ともに海外生活を経験し、自立精神にあふれる“同志”だったことも大きいだろう。87年の結婚後も1年半ほどは別居婚だった。

妻:88年に長女が生まれた後もしばらくは別々に住んでいました。

夫:僕は帰りが遅いし、たばこも吸っていたし、子育てにはよくない環境だよね、と。当面はバラバラに住まないかと。

妻:私も結婚という形を取らなくても子どもがほしいと思っていたくらいだったので、別に構わなかった。

夫:一緒に住み始めたのは89年。ちょうど僕は大きな仕事が終わり、彼女も仕事を続けながら家族でフランスに滞在できることになった。1年間、パリで一緒に暮らすことにしたんです。で、帰国後もそのまま一緒に住もうか、と。

「100%の満足なんて訪れない 売れっ子料理家夫婦の人生観を変えた食道がん」に続く

週刊朝日 2017年9月29日号より抜粋