■トップ選手の賞金より競技の底上げ優先

 賞金が少ない理由はもう一つある。国際スキー連盟(FIS)は2009/10シーズンから賞金対象を上位10人から30人に変更した。1試合の賞金総額は変わらないため1人あたりの取り分が減る。優勝賞金は3万CHFから1万CHFに激減、2位、3位の賞金も半分ほどになった。当然トップ選手たちは反発したが、競技発展のためには自国スキー連盟のサポートが少ない選手を支援する必要があった。

 新制度で賞金額が下がったのは4位までで、5位以下は上がった。その理由をホファー氏は「トップ3くらいまではスポンサー収入や用具の優遇で十分に補える」と説明する。

 当時、賞金変更に反対した1人が2002年ソルトレークと2010年バンクーバーの五輪2大会で個人2冠に輝いたシモン・アマン(スイス)だ。アマンは導入シーズンに総合王者となっており、かなりの損をした1人。それでも今は「最初は理解できなかったけど、結果さえ出せば十分な賞金をもらえるからこれでよかったと思っている。もちろん表彰台に上がった選手が倍くらい稼げればそれに越したことはないけど」と理解を示す。葛西も「いいことだと思う。選手のモチベーションが全然違う。30位に残りたいという気持ちが強くなっているからレベルも上がった」と話し、FISの狙いが実を結んだことが分かる。

 欧州のジャンプ人気が高い国では男子トップ選手はスター扱い。ジャンプ会場では、華奢な選手たちよりはるかにたくましい女の子達が絶好のポジションに陣取ってワーキャーの世界。女子を巻き込めば潤うというのは万国共通で、スタージャンパーになれば賞金以外で億は稼げるという。誰もができる競技じゃないからこその価値や魅力もあり、世界トップになればそれなりに稼げる。そう考えると、スキージャンプは夢もお金もあるスポーツなのでは?(ライター・小林幸帆)

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