セーブ日本記録を更新したソフトバンクのサファテ投手。西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、賛辞を送るとともにその要因となった球の特長を解説する。

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 ソフトバンクのサファテが9月5日のオリックス戦で47セーブ目をあげて、シーズン最多セーブの日本記録を塗り替えた。2005年の岩瀬(中日)、07年の藤川(阪神)を超えた。「偉大な2人の投手を超えられた。ホッとしたのと、うれしい気持ち」と謙遜したが、素晴らしい記録。心から祝福したい。

 球が速い。それだけでは片付けられない。160キロ近く投げる投手は外国人の救援投手ならたくさんいる。ただ、彼の真っ直ぐは回転数が違う。もう一つ。高めの速球をうまく使えることだ。1メートル93センチの長身から繰り出される直球。低めに投げて角度をつけることを考えるのも手だけど、彼の場合は高めに伸びのある球を意図的とも言っていいくらい投げる。縦に落ちる変化球がより生きる。

 よく「高めに投げるな」と指導されるが、それはベルトラインの中途半端な高めのこと。あれだけ低めに精度のいい落ちる球があるなら、打者はまず「低めの変化球は捨てよう」と目線を高くするだろう。そしたら、高めの球に手が出やすくなる。そこで球威とキレがあるからファウルでカウントを稼げる。追い込めば打者は低めの変化球にもついていかなきゃいけなくなる。高低で勝負できる特長をうまく生かしている。

 奪三振の数を与えた四球数で割る「K/BB」という数値がある。制球力があって、しかも三振が取れる数値として、野球界にも浸透している。サファテは今季、その数値は10を超えているという。つまり、1個四球を出すあたり、10個以上三振を取るということだ。そして1イニング当たり何人走者を出しているかの数値を見ても、約0.7。2試合登板して、ようやく1人走者を出す計算だ。球威のある投手で本塁打を打たれる心配も少ない。つまり、起用する工藤監督からすれば、2点差以上あれば、事故が起きないかぎり、勝てると踏んでいるはずだ。

 
 広島、西武、ソフトバンクと渡り歩き、7年で222セーブ。来年には、250セーブ以上が資格条件となる名球会の仲間に入るだろう。「チャンスをくれた球団、神様の導きのおかげだと思う。日本へ来たのは間違いではなかった」と言う。今では救援陣の精神的支柱として若い投手にもアドバイスを送っていると聞いた。ぜひ、毎試合準備する心構えを説いてほしい。日本球界は彼から学ぶことは多いはずだ。

 今年は中日の荒木、巨人の阿部、そして大リーグでは青木(現メッツ)が2千安打を達成し、阪神の鳥谷も、このコラムがみなさんに読まれるころには達成しているかもしれない。また、名球会に新しい仲間が入ってくる。新たな風が吹くことは素晴らしいこと。名球会がどう変わっていくかも楽しみだ。

 ペナントレースは、ソフトバンク、広島の優勝が目前に迫ってきた。本来なら最終戦までもつれ込むような熱戦を期待したかったが、それだけ他チームの追随を許さなかったということだ。とりわけ、ソフトバンクは選手層の厚さが要因とされるが、主力に故障者が出る中で守護神のサファテが1年間働いてくれていることこそ、一番だと言っていいだろう。

週刊朝日 2017年9月22日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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