愛妻と愛猫に先立たれ、前立腺がんや右目失明に見舞われながらも、今年喜寿(77歳)を迎え、ますます精力的に活動を続ける写真家・荒木経惟の展覧会が目白押しだ。「老いるほどいい写真が撮れる」と語るその原動力とは?
──今年開催する個展は、「写狂老人A」(東京オペラシティアートギャラリー)、今は亡き愛妻・陽子さんをテーマにした「センチメンタルな旅 1971─2017─」(東京都写真美術館)をはじめ15以上もあるそうですね。喜寿を迎えた年がアラーキー・イヤーとなりました。
「やっと時代が追いついてきたね、アタシの天才に。今年これだけ展覧会が続いているのは美術館の応援団が増えてきたから。77歳になって見かけは元気だけど、血尿は出るし、右目は見えないし、病気のことを思うといろいろ大変なのよ。でもアタシは生まれたときから背中に死をしょってるからね。どの写真も晴れ晴れしてないだろ? 死の影なんだ。死に神が近くにいるの。ところがアタシには女神もいるわけ。今その女神たちが応援してくれてるのよ。すべて女性のおかげ。男はいらないね」
──「センチメンタルな旅」展の陽子さんの写真は特に死の影が濃いです。
「陽子はあの世なの。だから彼女が死んだ後に日記をやめて陽子のリトグラフを作ったとき、唇に色をつけなかった。死に化粧したらあの世に行くから、まだこの世にいてもらいたくて。それでしばらくして区切りがついたと思ったら、今度はチロちゃん(愛猫)が死んだろ? だからアタシは生に向かうより死に向かう旅が多かったんだよ。でも生きるってことはセンチメンタルってことじゃない? それで今までずっとやってきて、今年あたりで、もう旅も終わりかなと漠然と思ってたわけ。だから今回の展覧会は、陽子への最後のプレゼントなんだよ。そしたら偶然、すごいものが贈られてきたね。鎌倉にある『港の人』っていう小さな出版社から『荒木陽子全愛情集』っていう分厚い本が届いたの。陽子が書いた文章を全部探して一冊にまとめてくれたのよ。これは絶対、陽子からのプレゼントだと思ってる」