前出の柴山さんのケース。母親(73)は、青森県の実家で一人で暮らす。5年前に脳出血で倒れたものの、現在は回復し要介護1の状態。車の運転はできなくなったが、まだ元気だ。しかし、今年に入って父(夫)を亡くし、近くに住んでいた弟家族も転勤で引っ越したため、柴山さんはこれまで以上に母を気にかけて見守るようになった。現在は月1ペースで帰省している。

 帰省時には、母親と丸一日は一緒に過ごす。寝るときも親と一緒の部屋。夜中のトイレの頻度や、トイレに向かうときの足取り、睡眠の深さなども知ることができるからだ。

「あえて家族には話さないような生活習慣までわかります。起床してすぐにストレッチしていることも、母と同じ部屋で寝て初めて知りました。短い帰省でも、同じ部屋で寝泊まりできれば、より密度の濃い情報を知れると思いますよ」

 実家から離れている間は、用事がなくても頻繁に電話する。それも、晩ご飯を食べ終えたころや週末など、「一人でいると寂しいかも」と思う時間帯を狙う。意地を張らずに素直に受け答えしてくれるからだ。

 電話では「今どこ? リビング?」「ご飯終わった?」「何食べた?」「何してた?」など、具体的な質問を重ねる。食事を終えた時間にかけてみて、生活のリズムが変わっていないか確認するときもある。柴山さんは言う。

「以前は用件をメールで済ませたり、用事があるとき以外に電話をかけることは少なかった。でも、こまめに電話をするようになってから、母の普段の生活を把握しやすくなりました。どんな生活をしているか知ろうと思って尋ねると、自然といろんなことが会話にのぼるはずです」

 会話では、間をつくることも意識。年齢を重ねればテンポ良く会話が進むとは限らない。言いたいことがあっても言葉がすぐに出てこないこともあるので、相手が焦らず話しだせるように、余白を設けているのだ。

週刊朝日 017年8月18-25日号より抜粋