西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏が、2軍選手の才能を伸ばす方法を考える。

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 チーム作りにおいて、エースと4番がクローズアップされるが、年間を通して安定して戦うにはクローザーの存在は不可欠だ。パ・リーグの首位争いを演じる楽天には松井裕樹、ソフトバンクにはサファテという絶対的な守護神がいる。

 今の野球は打者のレベルが向上しているから、九回の三つのアウトをしっかり取ってくれるクローザーはとりわけ重要。まず、クローザーの資質として、直球で空振りを取れなければ駄目だ。いくら変化球が良くてもね。クローザーが出てくることは、相手チームからすれば負けている展開。打者はダメもとで狙い球やコースを絞ってくる。それでも抑え込まなきゃいけない。これは、その試合の中で何度も対戦のある先発投手とは大きく異なる。

 ヤクルトがエース右腕の小川泰弘を守護神にした。故障明けという状況に加え、抑えの秋吉亮が負傷したから、守護神の大役が回ってきた。首脳陣は当初、小川に七回や八回を任せる予定だったと聞くから、多少は目をつむる必要があるが、広島に九回に5点差を逆転される試合もあり、苦しんでいる。

 速球も150キロを超えるわけではなく、故障明けで空振りを取れるスピンの利いた球も期待はできない。先発の時は直球だけでなく、カットボールの細かい変化や、スライダーやフォークボールで打ち取る投手だが、クローザーには使っていい球種とそうでないものがある。例えば、カットボールは相手の打ち損じを待つが、間違えれば一発につながる。スライダーも縦の変化ならいいが、横に曲がる変化なら、高めに浮けば長打になる。つまり「バットの芯を外す」のが先発投手なら、クローザーは「バットに当てない」意識が大事になる。

 直球で空振りやファウルを打たせ、フォークボールで三振を狙う単純な攻めでねじ伏せることが大切だ。先発ならソロアーチを打たれても、七、八回まで投げれば合格。クローザーは1点も与えてはならないし、次の試合に向けて準備することを考えれば、球数も少ないほうがいい。先発とは違った思考が求められる。

 
 私が西武監督時代の2001年。前年に23セーブを挙げた森慎二の調子が春季キャンプ前からおかしく、先発ローテーションの一角を担っていた豊田清をクローザーに指名した。先発として1試合を投げきるスタミナという点で不安があり、五回前後で降板するケースが目立っていたこと。先発では140~142キロだったが、短いイニングなら、145キロ以上出ることはわかっていた。何より、速球の制球力は私が見た中でナンバーワン。そこに、フォークボールという空振りが取れるウィニングショットがあったことで決めた。

 その豊田も、先発でカーブをよく使っていたが、守護神起用で数試合のうちにカーブを本塁打された。そこから直球とフォークボールの2球種を使い、カーブはアクセントにしか使わなくなった。

 変化球を投げる際にも「攻める」気持ちを持つことだ。先発の時は「緩急でかわす」意識が強いのが変化球。クローザーは「空振りを取る」攻めの気持ちで投げないと。1球も後悔する球を投げてはいけないのが、クローザーである。

週刊朝日 2017年7月28日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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