プロでは187センチの長身から投げ込む150キロに迫る速球を武器としたが、社会人では緩急で抑えることを学んだ。

 1年目の昨年は秋の日本選手権大会で快投を演じた。JR東日本東北(宮城)との2回戦。加賀美は自身初にして、大会史上2人目となるノーヒットノーランを達成。100キロ台のカーブやチェンジアップでカウントを整え、ストレートを内外角にきっちり投げ分ける投球術が冴えた。

 その試合のウィニングボールは「野球を続けることを喜んでくれた」神奈川に住む両親にプレゼントしたという。勢いを失わず迎えた今シーズンは、チームの大黒柱として奮闘中。6月の都市対抗中国2次予選では第2代表決定戦で先発し、チームを2年連続の本大会に導いた。

 苦悩のプロ生活から新たなステージに身を置く右腕は、来年秋に30代を迎える。その人生はこれからも野球とともに続く。

 社会人野球の魅力を加賀美はこう語る。

「30歳を過ぎた選手でもアウト一つを取るために全力で勝負し、ベンチでも声をからしている。ボテボテの当たりでもヘッドスライディングをする。気迫を前面に出し、負けられない試合を戦い続ける。チーム一丸となって相手に向かう感じが、高校野球の最後の夏のようです。その勢いが社会人野球のよさであり、面白さだと思います」

 小柄ながらもパンチ力を秘めた加治前竜一のプロのスタートは華やかだった。

 智辯学園(奈良)では2度の甲子園出場。東海大でも中軸を担った右の好打者が巨人から大学・社会人ドラフト4巡目で指名されたのは07年秋。そしてプロ1年目の08年6月6日、千葉ロッテ戦の延長十回裏に右翼スタンドへアーチをかけた。プロ初打席でのサヨナラ本塁打。プロ野球史上初の快挙だった。

「そんな時こそ謙虚にやらなければいけないと思ってやっていたつもりなんですけど……」。頭では理解していたつもりでも、鮮烈だったデビューが脳裏にチラつく。体は正直だ。意識せずとも、プロ初打席の姿を追い求める自分がいた。

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