ジャーナリストの田原総一朗氏は、都議選前に自民党が次々と失態をおかしたことに首をかしげる。

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 今回の東京都議選で自民党は苦しい戦いを強いられる、と安倍晋三首相自身も強く感じていただろう。

 6月19日に報じられた各メディアの世論調査で、安倍内閣の支持率が大きく下落したからである。その要因は、自民党が強引極まるやり方で国会の幕引きを図ったことに多くの国民が怒ったからである。

 一方、小池百合子都知事は都政を「ブラックボックス」と批判。歴代都知事が手をつけなかった都庁を透明なかたちに変革したことに、多くの都民が共感した。そのため、小池氏は高支持率を維持した。

 その小池氏が、都民ファーストの会という地域政党をつくり、代表に就任した。このことに対しては異議も生じたが、それは小池氏の支持率には、ほとんど影響しなかった。

 だが、私は選挙の告示前から、都民ファーストを含め、どの党の姿勢にも少なからぬ不満を覚えていた。どの党も東京都のどこが問題で、東京都をどうするのか、というビジョンを示していなかったからである。

 私は、小池氏が率いる都民ファーストは、当然ながらはっきりしたビジョンを示すのだろうと期待していたのだが、残念ながらビジョンらしいものは示されなかった。築地の市場を豊洲に移すかどうかは、とてもビジョンとは言えない。それに移転の問題も曖昧な部分が多すぎる。

 私は、小池氏の支持率が山を越えて落ち始め、小池氏の支持率だけが頼みの都民ファーストの勢いも弱まるのではないか、と感じていた。

 ところが、どうしたことか、苦戦を自認しているはずの自民党が、考えられないような、わざわざ都民の反発を呼ぶ言動を繰り返している。

 まず、安倍首相が6月24日の神戸市内での講演で、愛媛県今治市で加計学園の獣医学部新設を認めたことに関して「日本獣医師会の強い要望を踏まえて、まずは1校に限定して特区を認めた」と説明した。そして「1校に限定して特区を認めた中途半端な妥協が、結果として国民的な疑念を招く一因となった」「速やかに全国展開を目指したい。地域に関係なく2校でも3校でも、意欲があれば新設を認める」と強調した。

 
 だが、27日にテレビ朝日「報道ステーション」の取材に応じた日本獣医師会顧問の北村直人氏は、「獣医師会としては、1校に限定してほしい、などとは言っていない」と明言した。それに、安倍首相がもし本気で「2校でも3校でも意欲があれば新設を認める」と考えていたのなら、なぜ、国家戦略特区諮問会議の冒頭で、そのことを言わなかったのか。

 政府が定めた特区の基本方針では、特区での規制緩和について「実施状況の評価に基づき、その成果を全国に広げていく」と定めている。だが、今治の新学部は授業さえ始まっておらず、成果など評価のしようもない。首相自身が基本方針を破るような発言をするとは、どういうことなのか。これでは首相がちゃぶ台をひっくり返したと判断するしかなく、多くの都民は強い反発を覚える。

 さらに、27日には稲田朋美防衛相が都議候補の集会で「ぜひ当選、お願いしたい。防衛省、自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」と呼びかけた。これを野党が「自衛隊の政治利用」であり「行政の中立性を逸脱している」と猛然と批判し、自民党内にも批判の声が多い。なぜ、首相も防衛相も、この時期に都民の反発を招く言動を繰り返したのか。どうにも理解できない。

週刊朝日 2017年7月14日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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