――昔話が好きな人って、結構います。本書では「ヒトは過去を都合よく歪める」とタイトルをつけ、記憶の歪曲(わいきょく)化の理由を探っています。

池谷:天狗になっている人の鼻を折る人がいますけど、折ってはいけないこともあります。天狗は天狗。誰にでも多少はある性質です。たとえば、学生時代に勉強しなかったことを自慢げに語ることもその一環です。俺はこれだけ成長したんだと自己肯定感を高めるためでしょう。親のすねかじりとか、国会議員二世とか言われるのが嫌いなのと同じです。成長を証明したいために、昔の自分を落とすわけです。

――本書の最終章は、連載エッセーを離れ、人工知能について、池谷さんが思っていることを綴っています。いずれ知能はブランドではなくなり、ヒトの知能が礼賛される時代が、そろそろ終わりを告げるように感じました。

池谷:知能を自身のセールスポイントとしている人はドキドキしているでしょう。人工知能時代に何が残るでしょうね。消滅するのが確実だと目されているのは、接待マージャンのような仕事。社長に「まだまだだな君は」って悦に浸っていただくあれです。人工知能の場合、すでに強いことを先方が知っているので、負けたら明らかに手抜きをしたことがばれてしまいます。

 結局は順応性の高い人が生き残るでしょう。ですから、脳の柔軟性が大切です。これからの時代はどうなるかわからない。それに対処するために、どんな世の中が来ても対応できる準備をしておくことです。予見性です。ますます脳を使わなくてはいけません。それは人工知能と対戦したり、対抗したりすることではなく、人工知能とうまくやっていくために、人工知能に対するこまやかな心遣いが必要なのです。人間とは異なる、違う対応が要求されるはずです。そして、どういうときにどんな人工知能をどう活用するか、つまりAIリテラシーが必要になってきます。

※週刊朝日オンライン限定記事