保護者の反対運動もあったというから、同校の関係者が無関心だったとは言い切れない。しかし、このケースに限らず、全国津々浦々、「自分が役員にさえならなければ、誰がやってくれてもいい」という空気がはびこっている。千葉の事件で「他人任せ」が子どもを危険にさらすリスクもあるという事実を突きつけられ、その気持ちは揺らがないのだろうか。

 最後に記した一覧を見てほしい。PTAの立場を悪用したトラブルや犯罪は、実際に起きている。2005年には、三重県の小学校PTA会長の男性(当時34)が、自宅に泊まりに来た長女の友人2人(ともに当時小5)の体を触り、強制わいせつ容疑で逮捕された事例も。子どもだけでなく、親の個人情報が狙われることもある。

 ある都内の小学校では、在校生の家庭に突然、保険勧誘のダイレクトメールが届くようになった。しかも、医師や教師などの安定的な職業の家に集中的に届き、母子家庭は省かれていた。不審に思ったPTA役員が調べると、ある30代の女性が「会長に頼まれた」とうそをつき、金庫から名簿を取り出していたことが発覚した。ほかにも「選挙出馬の案内に名簿を使った人がいた」「PTA会長が入信している宗教の集会の間に子守をしてもらうため、集まりを無理やり作った」など、取材で耳にした悪用例は枚挙にいとまがない。

 もちろん、多くの保護者がまじめにPTA活動に取り組んでいることも事実だ。各地のPTAに詳しいライターの大塚玲子さんは、「千葉の事件で、PTAに貢献する父親への偏見や、PTA活動そのものが『いらない』とされる風潮が加速するかもしれない」と危惧する。大塚さんによると事件後、ある小学校では、父親が「男親のPTA活動や授業参観の禁止」などの極端な提案をしたという。

 問題の本質は、重すぎる負担だ。PTA会長などを計10年務めた経験のある50代の自営業男性は、「PTAには、勤め人が担うのは不可能な仕事も多く、押し付け合いに発展するのはやむを得ない」と指摘する。3人の子を持つ専業主婦の女性(33)は嘆く。「子どもの中学校のPTA役員選考会議は、ひどいなすり付け合い。決まるまで教室に軟禁状態で、入り口で役員が見張っていて、トイレも許可がないと行けませんでした」

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