電気通信会社のエムテックス(横浜市)に勤務するエンジニア池田明宏さん(41)。基板の回路図を設計し、電子機器の測定をするが、作家「きんべい」として、木製のネクタイピンやヘアクリップを、ハンドメイドマーケットのサイトで販売する。

 きっかけは3年前の夏。社がハンドメイドの音楽プレーヤーの開発に乗り出し、試作品開発を任された池田さんは思案していた。手に握りしめていたアイスの棒を凝視し、ひらめいた。アイスの棒をネクタイピンにしてSNSに投稿すると好評だった。音楽プレーヤーのネット販売の調査を兼ね、売り始めた。

 改良を重ね、野球のバットの素材でもあるメープル材を使用。工程には3週間かかる。レーザーカットと刻印を外注し、出てきたヤニを洗浄し、乾燥後にヤスリをかけ、接着剤で金具をつける。メッセージもユニークで、「あたり」「はずれ」「Pardon the pun(ダジャレを許して)」……。昨年はネクタイピン約300本、ヘアクリップ約100本を売った。

 ハンドメイドの世界では、どこかで見たような商品は見向きもされない。アイデアのメモ書きは習慣となった。社内では池田さんに続き、同僚が革製品を手がけるようになった。

 JR西荻窪駅から歩いて10分ほどの住宅街に、日曜日限定のカフェがある。仕事の紹介サイト大手「クラウドワークス」(東京)で広報を担当する稲増祐希さん(29)が運営する「Nyara Cafe」だ。

 クラウドワークスでは全社員に副業を認める制度を昨年導入した。他社に雇用されないフリーの仕事であれば、申請もいらない。仕事の技術を生かして、動画やアプリの製作をしている社員もいる。稲増さんは大学時代に複数のカフェでアルバイトをした経験があり、カフェのオーナーと知り合い、定休日の日曜日だけ借りて、開店資金や賃料を抑えられた。会社での仕事は忙しく、残業もあるが、週1日好きなことをやれると思えば苦にならない。

次のページ