ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。米国には身元を隠しつつメディアに告発できるツールを報道機関が積極的に取り入れているという。

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 トランプ米大統領とメディアの確執は深まるばかりだ。中でも報道現場の責任者であるショーン・スパイサー大統領報道官の、政権に敵対的なメディアに対するスタンスは露骨。2月24日の定例会見では、保守寄りメディアの参加を認める一方で、政権に批判的なCNNやニューヨーク・タイムズ、BBC、ポリティコ、バズフィードなどの参加を認めなかった。

 同日、トランプ大統領によって投稿されたツイートも話題になった。

「FBIは長年政府内にはびこる国家安全保障に関わる情報漏えい者を阻止できずにいる。FBI内部の漏えい者すら突き止められていない。アメリカを壊滅させる恐れもある機密情報がメディアに渡っている。いますぐ探し出せ」

 これは2月13日に大統領補佐官を辞任したマイケル・フリン氏が就任前の昨年12月に駐米ロシア大使と対ロシア制裁について協議していたという疑惑に関連して投稿されたもの。補佐官就任前──民間人の立場で外交交渉に介入するのは連邦法に抵触する違法行為であるとワシントン・ポストが報じ、その後フリン氏は辞任した。トランプ大統領が怒りを隠さないのは、この情報が複数の政府関係者からもたらされた内部告発だったからだ。こうした内部告発が相次げば政権の屋台骨が揺らぎかねない。だからこそ、政府として内部告発者を締め上げる方針を打ち出したのだ。

 そんな状況下でネットを利用して身元を隠しながら安全にメディアに告発することができるツールに注目が集まっている。いくつかある中で現在最も広く報道機関で使われているのが「セキュアドロップ」というツール。既にニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、ガーディアン、AP通信、バズフィードといった米国内外30以上のメディアがセキュアドロップを内部告発の窓口として用意している。

 
 このツールを作成した「報道の自由基金」のトレバー・ティム事務局長はAFP通信の取材に対して「米大統領選以降、ネット上に痕跡を残さずに情報を共有できるセキュアドロップへの関心が、ここ2カ月で爆発的に高まっている」と答えている。メディア側にとっても「安全に告発してもらう」環境を整えることが急務になっているということだろう。

 2月末には、スパイサー報道官が側近のホワイトハウス職員のスマホに情報を匿名でリークできるアプリが入っていないか抜き打ちチェックしている、と複数のメディアで報道された。この報道も、政府内の内部告発者から寄せられた情報によって成り立っている。

 欧米でこれだけセキュアドロップに関心が高まっているにもかかわらず、日本の主立った報道機関で対応しているところは皆無。世界の報道機関と足並みをそろえる意味でも、役人の不正や政治家の関与が疑われる森友学園の一連の疑惑に関する情報を集める意味でも、一刻も早く対応を進め、内部告発しやすい環境を整えるべきだ。

週刊朝日  2017年3月24日号

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津田大介

津田大介

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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