落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「酒乱」。
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正直、酒癖が悪いです。関係各位にはいつもご迷惑おかけ致しております。
大学生の時、好んで飲んでたのは赤玉ポートワイン。1本500円しなかったんじゃないかな? 1本完飲すると、翌日頭が割れるように痛くなります。
あれは大学3年の時。とある老人ホームで落語を披露したギャラの代わりに、高価な大吟醸を頂いたのです。うまかった。落研の部室で後輩と二人で空けてしまい、それで終わりにしとけばよかったのが、つい口から出たのが「いつもの赤玉、買ってこい!」の一言。
赤玉のやきもちでしょうか? 浮気したバツです。貧乏学生は壊れました。後輩によると、赤玉を半分くらい飲んだ私は、
「たりらりらーんっ!」
と街に繰り出すと、繁華街の路肩に止めてあったハイエースに体当たりしたそうです。
「なんだこらーっ!」
と運転席から飛んできたのがダブルのスーツを着たコワモテのお兄さん。キャバクラの送迎車だったそうです。
「俺はゴキゲンだーいっ!」
逃げようとした私は足がもつれて転び、そこへお兄さんが馬乗りになり、
「何してくれてんだ!」
との至極まっとうな問い。
「へへ、あのね……おじいちゃん、おばあちゃんの前で落語やってきたの……」
と、ほほ笑みながら答えたそう。お兄さんは私の後輩に、
「おまわり呼んでこいっ!」
と命じました。交番に連行されながら「落語やったら捕まりましたー」と繰り返す私。おまわりさんはあきれて「話は後で聴くから!!」。
「そうだ!! 後で聴いてくれるって言いましたよねーっ!!」
と、おまわりさん相手に「金明竹」という落語の長台詞をまくし立てようとしたが、ほとんど言えずに「寿限無」の名前の言い立てになり、散々だったそう。さらにドヤ顔で感想を求め、
「いーんじゃない?」
と応えたおまわりさんに、
「お前は何もわかってない(怒)」
と叫び、古今亭志ん朝師匠の素晴らしさを泣きながら訴えたといいます。
朝、キャバクラ嬢の送迎を終えたお兄さんが交番に来ました。
「修理代払えばいいから」
と後輩に連絡先のメモを渡し、帰っていったそうです。私も、後輩に引きずられるようにして帰ったようです。翌々日、後輩がメモを私に突き付け、
「後が怖いですよ! ちゃんと連絡して払ってください!!」
と言うので、おそるおそる電話すると、
「3万2千円、今から言う口座に振り込んで」
との返事。O先輩にお金を借り、すぐに振り込みました。後日、お兄さんから電話があり、
「入金確認したよ。これで示談だから。酒には気をつけてね」
と優しい留守録。
以上、まったく記憶になく、すべて後輩からの伝聞で事実関係は不明。書ける話はこれくらい。あとは書けないことばかり。
今思い出しましたがO先輩にまだ3万2千円返してません。ほぼ20年越しですが、これは死ぬまでに返さねば。皆さんもお酒には気をつけて(棒読み)。
※週刊朝日 2017年3月17日号