ミッツ・マングローブ「ドヤ顔ヴィーナス。お帰り淳子ちゃん!」 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

AERA dot.

ミッツ・マングローブ「ドヤ顔ヴィーナス。お帰り淳子ちゃん!」

連載「アイドルを性せ!」

このエントリーをはてなブックマークに追加
「否が応でも色めきだってしまうのは、彼女が至高のアイドルだった証しです」

「否が応でも色めきだってしまうのは、彼女が至高のアイドルだった証しです」

 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「桜田淳子」を取り上げる。

*  *  *
 桜田淳子さんが、3年4カ月ぶりにステージに立たれるとのこと。否が応でも色めきだってしまうのは、彼女が至高のアイドルだった証しです。アイドルのスキャンダルには、大なり小なり『フォーマット』がありますが、25年前の『淳子ちゃん結婚』に際するそれは、諸問題も含め、一切前例のないものでした。しかも、その様をつぶさに観せられたという点においても、明菜ちゃんやのりピーを遥かに凌ぐ『衝撃』として、今も私の中に刻まれています。そしてあの合同結婚式。炎天の下、ウェディングドレスを着て涙する淳子ちゃんの姿が、死ぬほど綺麗だった。あんなに美しい花嫁を、私は後にも先にも見たことがありません。あれほどまでにビジュアルスペックの高いアイドルは他にいないことに、最近ようやく気付きました。

 可愛さ、綺麗さ、美肌に美脚。不安定な歌声とは裏腹に、一点の曇りもない自意識。女性アイドル産業の過渡期に出現した桜田淳子という存在によって導き出された『アイドル・メソッド』は計り知れない。それぐらい未開の高みを志し、拓いた人なのです、淳子は。特に、同じサンミュージックから80年にデビューした松田聖子は、言わば『桜田淳子を使って試されたあらゆるアイドルの方向性』の中から、勝算があるものだけを凝縮して作られた『必勝法の結晶』だということを忘れてはなりません。淳子ちゃんが、アイドルとしてオーバーランしまくってくれたお陰で、アイドルの『していいこと・しなくていいこと』『打ち出し加減・抜き加減』みたいなものが明確になったのだと思います。

 今になって観る桜田淳子は、とにかくひたむきで自信に満ち溢れ、そして果てしなく危うい。どうしてあれがノンケ男子のドキドキやムラムラを煽れたのか不思議で仕方ありません。例えば歌いながら見せる表情も、それまでの女性アイドルといえば『微笑む・はにかむ・恥じらう』のが王道なところを、淳子はこれ見よがしの『ドヤ顔』を決めながら、得意げにリズムを刻む。女のドヤ顔ほど男が萎えるものはないと思うのですが、二十歳前にしてすでに、後の『ニューヨーク恋物語』的風格が完成されています。そして、ことごとく可愛過ぎ、綺麗過ぎ、抜かりなさ過ぎる自我が、まんま女としての『隙』になっているのも事実で、そこに当時の男子が『萌え』を覚えていたのだとすれば、いかに現代男子がフニャチョコロリコンなのかが分かります。

『追っかけの高校生ファンに対し、「ありがとう。嬉しい!」ではなく、「あなた、こんな所にまで来て、受験は大丈夫なの?」と言い放った』という、オカマにとってはヨダレモノのエピソードに代表されるように、ご自身は『ツンデレの元祖』と仰っていますが、もはや『女王様』の元祖では? 王道アイドルとして一世を風靡しつつ、そのスタンスを取り続けるって、これは立派な『調教』です。

 百恵ちゃんが『いけない娘だと噂されてもいい♪』と唄っているのを見て、「そんな歌、可哀想!」とプロデューサーに詰め寄った淳子。虚像を実像にするために、人目のある場所以外でも『Always smile』を自らに課した淳子。やはり今一度アイドル界の生徒会長として、あの舌足らずな金切り早口で「悪いけどね、甘っちょろいのよ! あなたたち!」と喝を飛ばしてほしいものです。

週刊朝日 2017年2月24日号


トップにもどる 週刊朝日記事一覧

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

続きを読む

おすすめの記事おすすめの記事
関連記事関連記事

あわせて読みたい あわせて読みたい