「こつこつと働いていても、レールから外れたら、人生が一変してしまう。それが今の日本の恐ろしさで、老後の計画にまで大きな影響を及ぼしかねない」

 藤田さんは、社会保障など公的な支援が弱い日本社会の問題点を指摘する。そして、生涯働き続けないと暮らせなくなる日本社会のあり方を問うている。

 藤田さんが代表理事を務めるNPO法人「ほっとプラス」の生活相談窓口には、長年地道に働いてきた高齢者からの相談も多い。無計画で怠惰な生活を若いころからしてきたわけではない。そんな人も、いつ貧困の道へ転落するかわからない。

 相談者の高齢男性には、プライドからか、貧しくなっても生活保護受給を拒む人が多いという。ただ、命と引き換えのような過重な仕事をするならば、「受けられる支援を受けるべきだ」と藤田さんは言う。

 生活不安を感じながら、無理をして働き続ける高齢者は多い。記者が出会った東京都内の79歳の一人暮らしの女性もその一人。2カ所の職場で、パート事務の仕事を掛け持ちする日々だ。

 医師の家に生まれて何不自由なく育ったので、「80歳を前に生活のために働く老後を想像できなかった」。

 築40年の賃貸マンションに住み、13万円の年金の大半は家賃と生活費に消える。生活苦からかつて自殺を図ったこともある。

「30年前に夫が亡くなるまでは専業主婦だったので、特に資格があるわけでもなく、簡単な仕事しかできなくて……。毎月、食べていくのがやっとです」

 女性は今後も体が動く限り、仕事を続けるという。

週刊朝日 2016年12月16日号