解体業の仕事をする68歳の男性(手前)。仲間から「こんちゃん」の愛称で慕われている(写真:NPO法人ふれんでぃ・株式会社たつみ提供)
解体業の仕事をする68歳の男性(手前)。仲間から「こんちゃん」の愛称で慕われている(写真:NPO法人ふれんでぃ・株式会社たつみ提供)
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シルバー人材センターで紹介している子育て支援の仕事(写真:シルバー人材センター提供)
シルバー人材センターで紹介している子育て支援の仕事(写真:シルバー人材センター提供)

 年金制度改革法案が、衆議院で可決された。支給額引き下げの新ルールが盛り込まれ、野党は“年金カット法案”と呼んで猛反発。将来の支給額を心配する高齢者が多い。かさむ出費と、細る年金。生活のために過重な仕事を強いられる“過労老人”が、ますます増えそうだ。

「こんなおばあさんを雇ってくれるかしら」

 職探しのまっただ中の東京都内の80歳の女性はつぶやく。専業主婦として夫を長年支えてきたが、夫は2年前に亡くなった。今は40代の息子と2人で暮らす。

 夫の事業がうまくいかず、年金の大半が借金返済に消えた時期が10年ほどあった。十分な蓄えがなく、今は17万円の年金の大半が家賃と生活費に消える。さらに、息子の奨学金さえ自らの年金から返しており、家計を圧迫する。

「奨学金はこれまで少額ずつ返済してきたので、今でも100万円単位で残っているんです。息子は正社員ですが、給与が低いために貯金もできていません」。女性は苦しい胸の内を話す。

 今秋は野菜が高騰し、「28円のもやしばかりを食べていた」。体がやせ細って一気に老けたように感じるが、次の年金支給までは1カ月以上ある。おいそれとは病院にも行けない。生活を安定させるため、スーパーでのレジ打ちなどの仕事を探しているという。

 穏やかな老後を迎えるはずだったのに、年をとっても生活のために働かざるを得ない。こうしたお年寄りは今や珍しい存在ではない。

 内閣府「高齢者の経済生活に関する意識調査」によると、60歳以上の人が働く理由(複数回答)は、「生活費をまかなうため」が最多で、2011年度に59%。01年度調査の52%から上がっている。

「将来に備えた蓄えのため」なども含め、経済的理由をあげる人の割合は10年前より増える傾向だ。一方で、「生きがい」「健康」を理由にあげる人の割合は減った。

 昨年、『下流老人』(朝日新書)で高齢者の貧困に警鐘を鳴らした、社会福祉士の藤田孝典さんは話す。

「高齢者の貧困問題は、改善するどころか、悪化しています。11月には“年金カット法案”が、強行採決された。生きるために働かざるを得ない老人は、これからも増えるはずです」

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