「さむっ」

 私に笑みを向ける6番男性は、心も寒そうだった。カップルにならなかった人たちが、次々とバスに戻ってくる。あわよくばと参加した52歳の料理教室に通う1番男性は、一日中しゃべり続けて疲れたらしく、後ろの席で寝てしまった。

 午後8時半。帰路につくバスの中で、小柴さんがカップリングカードを配り始める。第3希望まで書き、降りる間際にカップル成立の番号だけが発表される。名札がなくなったとかばんの中をひっくり返す酔っ払い2番女性の隣に座る57歳の7番男性が、笑いながら世話をやく。10年前に離婚して以来、7回参加したが、居酒屋デートした女性は1人だけ。しかし、彼は友達関係までしか望んでいない。2人は第1希望同士でカップル成立したが、再婚を望む2番女性と、望まない7番男性──。しがらみが多く、若いカップルみたいにトントン拍子で進めないのが、ゴールデンエイジの特徴でもある。

 芸人っぽい5番男性と、看護師の1番女性も第2希望同士だが、カップル成立した。「女性の1番」と、小柴さんに言われた途端「わぁ!」と、彼女は短い歓声を上げた。銀行員の4番女性と、ボッテガを貢がされた4番男性も、第2希望同士で成立した。7番女性が心を寄せていた2番男性と、「車が……」と言っていた8番女性は、第1希望同士でカップルになった。梅田でバスを降りた2人に声をかけると、表情の乏しかった2番男性が「とても幸せです」と、初めて笑みを見せた。

「また会って、おつき合いしたいと思います」

 静かだが確かな口調で8番女性が言い、二人そろって頭を下げた。梅田駅改札に向かって肩を並べて小さくなっていく2人のほのぼのとした後ろ姿を見送りながら、「一歩前に出た人は、年齢や条件に関係なく幸せへのチケットを手にできる」と、私は確信した。

週刊朝日 2016年12月16日号