男性の顔がほっとした表情に変わり、小柴さんからプロフィルカードや連絡先交換カードなどの書類と、「8番○○」と書かれた名札を渡される。8番男性は初参加の60歳で、かつては一流ホテルでウェディングケーキを作っていたパティシエだった。現在は空港で機内食用のケーキを作っている。10年前に離婚した8番男性の全身から、何が何でも結婚相手を、という意気込みを感じた。

 バスでは、同じ番号の男女16人が隣に座り、会話が弾んでいた。

 小柴さんが、「『ローザンベリー多和田』(滋賀県米原市)で散歩をし、中山道の清流の郷『醒井』で散策と夕食。その後、『グリーンパーク山東』(同)に源氏蛍を見に行く」という約9時間のツアーの説明をした。今の相手とは次のパーキングエリアで席替えをするまでの15分間、交流を深める。プロフィルカードを交換し、職業や休日の過ごし方などから会話のきっかけを見つけるのだが、皆、時間を惜しむようにしゃべっている。

「ゴールデンエイジの男性は1歳でも若い方を好むので、年が上の女性があぶれる可能性があって……」

 小柴さんが私にそう言ってから、席替えのアナウンスをした。1番男性が、8番女性の席へ行き、男性がくり上がる。バスから降りる度に男性の席が替わる。

 午後3時50分。バスは「ローザンベリー多和田」に到着した。ここには千株のバラ園があり、パン・ピザ作り体験などができる。バラのアーチ下で写真を撮り、数人で固まって話をし、皆が休憩所にたどり着く前に、いち早く62歳の5番男性が、ピザを注文していた。まもなくピザが出来上がり、「食べたーい」と女性4人が集まった。3人の男性もやって来た。芸人のように声と顔の大きい5番男性が、大阪弁でしゃべりまくって場を盛り上げる。

「30代後半の後輩を誘って初めてこのツアーに参加したら、彼女はカップルになって、7カ月で結婚しちゃったんですよぉ」

 整形外科病棟で働く40歳の1番看護師女性の言葉に皆が驚きの声を上げている。夜勤明けの疲れの残る顔に優しい笑みを浮かべる1番女性は好印象だ。「男性は婚活イコール老後の生活というリアルな意識があって、看護師さんに人気が集まる」と、酒井さんが言っていたのを私は思い出した。売店前で、小柴さんが、

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