ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「ドナルド・トランプ」を取り上げる。

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『女っぽい』は男性のことを、『女らしい』は女性のことを形容する言葉ですが、私のような男性は、たまに『女じゃないのに女より女らしい』などと、かなり矛盾を孕んだ表現をされることがあります。これが『女より女っぽい』だと、例えばアルフィー高見沢さんの姫髪や、T.M.Revolutionの白い肌、もしくは「クロちゃんです!」のように、特に『女っぽさ』を意識・強調するつもりのない男性に結びつきます。しかしIKKOさんや私を指して、今さら『女っぽい』とは言いません。承服し難い方もいるでしょうし、当人たちも皆が皆、それを望んでいるわけでもないのですが、やはりオカマや女装は、『女』として認識もしくは括られているのです。なぜなら、『女っぽさ』を意識・強調している私たちは、その時点で『女らしい』からです。お気を遣わせてしまい、ごめんなさいね。

 というわけで、今日は男が醸す『女っぽさ』について。前述した高見沢さんや西川さんのように、男性としての美意識や志(こころざし)が、女性以上の女っぽさ(女子力)を発揮してしまうのは、極めて稀なケース(最近だと織田信成くん)です。大概、無意識かつ中途半端な女っぽさは、「男のくせに」と揶揄される対象となります。そしてその『女っぽい』は、時に『オカマっぽい』になり、要らぬ疑惑の目を向けられたりもします。サバサバした男勝りな女子はまかり通っても、ねっとり喋る男や、口に両手を当てて笑う男などは、ことごとく断罪される。今も昔も変わらない『男子像』に対する偏りです。漏れなく私もその道を通ってきました。『疑惑』なんて言われると、あたかも悪いことでもしているようで心外ではありますが、そんな当事者の私ですら、「あれ?」と感じるサインや兆しに対し、敏感になっているのも事実です。ステレオタイプなものだと、『小指が立ちがち』『脇が締まりがち』『首や肩をすくめがち』『内股になりがち』などがありますが、今どきこんなベタな仕草は何の証拠にもならないぐらい、男子の現実も多様化しています。

 
 ただ、最近どうしても引っかかる人物がいるのです。アメリカ次期大統領のドナルド・トランプ氏です。引っかかるというか、もはやオカマにしか見えません。演説している時、脇をぎゅっと締め、肩の辺りまで手を挙げて、英会話教師のように喋る感じ。やたら顎をクイ上げするのも気になります。特にスナップ(手首)の利かせ方は、今や、トランプか、ピコ太郎かってぐらいの王道感。私の知っている、古参のママさんたちと何ら変わりません。さらに、あらゆる摂理に逆らったあの髪型に対する執着や、人を罵る際の興奮具合なんかも見るにつけ、トランプ氏、かなりのトラディショナルであることが分かります。

「TPP!? やーだ、冗談じゃないッ! 安保!? 知らないッ! 関係ないッ!お宅らで勝手にやってちょーだいッ!」。トランプ氏が当選した暁には、こんな外交が繰り広げられること間違いなし。是非その時は戸田奈津子先生に、すべての字幕を担当して頂きたい。酒ヤケしたダミ声で、「ア・メ・リ・カ、バンザーイッ!」って、案外その方が国民の士気は高まったりして。

 それにしても、『オカマ』ってセクシャリティではないんだなと改めて痛感した次第です。

週刊朝日 2016年11月18日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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