(1)ホルモン受容体陽性・HER2陰性(ルミナル型)ホルモン剤は有効だが分子標的薬の効果は期待できない。抗がん剤を組み合わせることもある

(2)ホルモン受容体陽性・HER2陽性(ルミナルHER2型) ホルモン剤、分子標的薬ともに有効。さらに抗がん剤を組み合わせることも多い

(3)ホルモン受容体陰性・HER2陽性(HER2型)分子標的薬は有効だがホルモン剤の効果は期待できない。抗がん剤と組み合わせることが多い

(4)ホルモン受容体陰性・HER2陰性(トリプルネガティブ型)ホルモン剤、分子標的薬ともに効果は期待できないが抗がん剤の効果は期待できる

 このように乳がんのタイプを調べることで効果的に治療ができ、余計な副作用に苦しむこともなくなる。さらに最近は、これらのタイプによって術前薬物療法が有効かどうかがわかってきた。

 2002年から04年に実施された臨床試験によると、ルミナル型は、術前薬物療法をすると約7割の人はがんが小さくなった。がんが完全に消えた人も全体の1割程度いた。

 一方、HER2型は、半数以上の人のがんが消えた。どちらも陽性、または陰性のタイプの人も約3割はがんが完全に消えた。

 ただし、画像上はがんが消えた場合もがんは残っている可能性があるため、現在は手術をするのが原則だ。

湯沢さんはHER2型だったため、術前薬物療法を実施。抗がん剤の「エピルビシン」を3カ月、分子標的薬の「トラスツズマブ」と抗がん剤の「パクリタキセル」を4カ月使用した。治療中は嘔吐などの副作用がつらかったが、しこりに触れると明らかに小さくなっているのが実感でき、前向きに治療に取り組めた。

 薬物療法終了後、がんは治療前の半分以下の大きさになっていた。津川医師は乳房温存手術をしても乳房の形を維持できると判断し、部分的に切除した。手術後は乳房全体や乳輪、乳頭の形を術前と変わらない状態で維持できた。湯沢さんは「これなら胸が開いた服も着られるし、温泉にも入れる」と安心した。津川医師はこう話す。

「術前薬物療法でがんが小さくなると、温存手術ができる可能性が高くなるだけではなく、乳房の形をきれいに残せる可能性も高くなるのです」

週刊朝日  2016年11月4日号より抜粋