移り変わる乳がんの治療事情。その最前線はどうなっているのか (※写真はイメージ)
移り変わる乳がんの治療事情。その最前線はどうなっているのか (※写真はイメージ)

 女性の12人に1人がかかるといわれる乳がん。最近ではフリーアナウンサーの小林麻央さんが、がんを公表した。乳がん治療は多様化し、がんの性質と患者の希望に合わせた「個別化」が進んでいる。

 乳がん治療の基本は乳房にできたがんを切除する手術だ。しかし、乳がんは目に見えない小さながん細胞が全身に広がりやすく「全身疾患」と捉えられることもある。

 このためごく早期を除き、治療は乳房に対する手術や放射線治療に、薬を使った「全身治療」が組み合わされる場合がほとんどだ。

 全身に潜んでいるがんを根絶し、再発を予防するための薬物療法は手術後に実施される「術後薬物療法」が主流だった。しかし、最近は手術前に実施する「術前薬物療法」も増えている。聖マリアンナ医科大学病院乳腺・内分泌外科教授の津川浩一郎医師はこう話す。

「術前薬物療法は従来、手術が難しい進行がんの人に対して手術の可能性を高めるために実施されてきました。しかし近年は手術は可能でも、乳房を全摘する必要がある人に術前薬物療法をすることで、がんが小さくなり乳房を温存できる可能性が出てくることがわかりました。また、術前薬物療法でがんが消えると再発リスクも低くなるため、積極的に実施されるようになってきたのです」

 手術にはがんとその周囲だけを部分的に切除して乳房をできるだけ残す「乳房温存手術」と、がんのある乳房全体を切除する「乳房切除(全摘)術」がある。

 どちらにするかは、がんの大きさや広がり、位置などによって決まる。温存手術をするには、がんが小さく部分的に切除しても、乳房の形を保てるかどうかが重要だ。

 神奈川県に住む主婦の湯沢貴子さん(仮名・41歳)は1年前、右胸の内側に3.2センチのがんが見つかった。がんは乳頭付近にあるため、部分切除すると乳房の形が崩れる可能性が高かった。また針生検で採取した組織を詳しく調べると、術前薬物療法の効果が得られやすいタイプのがんであることもわかった。

 乳がんの薬物療法では、女性ホルモンの働きを抑える「ホルモン剤」、がん細胞の増殖に関わるたんぱく質(HER2[ハーツ―]たんぱく)の働きを阻止する「分子標的薬」、「抗がん剤」の3種類を単独、もしくは2~3種類を組み合わせて使用する。どの薬物を使用するのかを決める指標となるのが、「ホルモン受容体」と「HER2たんぱく」を調べる検査だ。この二つが陽性か、陰性かによって乳がんは次の四つのタイプに分けられる。

次のページ