西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、先日の登板で1回5失点という結果に終わった松坂大輔投手の課題を指摘する。

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 ソフトバンクの松坂大輔が10月2日の楽天戦(コボスタ宮城)でマウンドに立った。メジャーからの復帰後、初めての1軍登板だった。大輔は、チャンスをくれた工藤公康監督に感謝しないといけない。

 2年間ずっと1軍のマウンドに立てなかった選手に、消化試合とはいえ、チャンスを与えることは容易なことではない。クライマックスシリーズの“秘密兵器”と考えていたのであれば、2軍で頑張っている若い投手を使っただろう。大輔にチャンスを与えた背景には、投手出身の監督ならではの配慮を感じる。もし今年、1軍のマウンドに立てず、半年後の開幕に向けて調整を続けるとなれば、目標がかすんでしまう。どんな結果であれ、1軍で投げさせ、そこで出た課題や自信を来年につなげてほしいと考えたはずだ。

 1回で5失点。結果を見れば、良かった点を見いだすのは難しい。春先にも指摘したけれど、根本的に見直さなければならない部分がある。それは柔軟性だ。大輔は踏み出した左足首が硬い。だから、自分の投法に合っているマウンドなら、ある程度は制球がつくが、合わないマウンドだと、途端に崩れる。

 極端に言えば、ロボットが投げる場合、足場がしっかりしていないと、投げることすらままならないのと同じこと。踏み出した左足、ひざ、股関節で柔らかく受け止め、そして左足を軸にボールを捕手に近い位置で離すという基本的な形が生まれないと、球のキレとともに安定した制球は見込めない。

 股関節の使い方について考えてみる必要がある。これは一筋縄ではいかない。レッドソックス時代の2009年に股関節を痛めた経緯もあり、動かないのかもしれない。今から地道にやっても開幕に間に合わないかもしれないが、股関節を含めた柔軟性を発揮できないと劇的な変化は望めない。

 
 36歳になって何を考えるか、だ。2年間で1軍登板が1試合のみ。来年はもう、「松坂大輔」という名前だけで1軍登板を勝ち取ることはできないだろう。2軍で「本当に良くなった」と思わせるだけの結果を、一過性でなく、継続して出していくしかない。

 目指す方向を見直す必要があるかもしれない。2年やってできなかった投球が、同じことをやって劇的に変化するとは考えにくい。本人に会ったら、その辺りの考えも聞きたい。工藤監督にも大輔についての評価を聞いてみたいよな。

 投手は、マウンドの傾斜にしたがって投げる。つまり、傾斜に沿って自然に体を動かせないと、能力を発揮できない。体のパーツの柔軟性を一から見直すことができるのか、できないのか。できないと諦めたうえで体全体の動きを追求するなら、それは土台のないところに積み木を高く積み上げるようなもので、すぐに崩れてしまう。

 8月末以降、大輔が2軍で登板を繰り返したのも、1軍で投げたいとの思いからだったはずだ。高い年俸をもらっている以上、1軍で結果を出したい気持ちはわかる。だが、結果を出すために短絡的な調整をするようでは、また同じ結果に終わってしまう。

週刊朝日 2016年10月21日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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