驚きの判決に傍聴席はざわめきに包まれた (※写真はイメージ)
驚きの判決に傍聴席はざわめきに包まれた (※写真はイメージ)

 教え子を殺したとして殺人罪に問われた福井大学教職大学院の元特命准教授・前園泰徳被告(44)の福井地裁の裁判員裁判の判決が、9月29日に言い渡された。嘱託殺人が成立するという異例の内容で、殺人罪で懲役3年6カ月。検察側は13年を求刑していたため、傍聴席はざわめきに包まれた。

 前園被告は昨年3月、東邦大大学院生の菅原みわさん(当時25歳)を車の中で首を絞めて殺害した容疑で、逮捕・起訴されていた。

 前園被告は赤とんぼの研究で知られた人物。菅原さんとは2011年7月に野外調査で知り合った。その約1カ月後には、妻子がいる前園被告と菅原さんは不倫関係となり、犯行当時までその関係は続いた。

 当初は、男女関係のもつれから殺意を抱いたと思われていた。だが公判で、弁護側は、

「菅原さんが前園被告に、こう頼んだからです。『殺してください』と」

 と、嘱託殺人を主張した。その理由について、「境界性人格障害で愛情に飢えていた」「何度も菅原さんは自殺を繰り返し、それを前園被告は止めていた。このときはやむを得なかった」などと訴えていた。

 一方、検察側は真っ向から否定。前園被告がドライブレコーダーのSDカードを廃棄するなど交通事故にみせかけようとしたと主張し、前園被告と菅原さんのLINEを法廷で明かした。

〈死ぬのを許されないなら泰徳さん一家を殺す〉〈妻子が消えるなら犯罪者になっても厭わない〉〈(関係を)マスコミにばらす〉

 検察側は、菅原さんのこのLINEについて、

「自殺するとは考えず、不倫関係の前園被告の気を引くために送信しただけ」

 と説明。前園被告をこう断罪した。

「家族を失ったり危害を加えられるのを危惧、特命准教授の地位を失いたくないので、犯行に及んだ」

 判決は、

「前園被告の関心を引くものと断定はできない。自殺する意思がまったくないとは言い切れない」「嘱託殺人の意思がまったくないとまではいえない」

 確証がないため、前園被告の主張を認めるといった内容だ。「疑わしくは被告人の利益に」は裁判の原則だが、菅原さんの両親は、

「死人に口なし、あまりに(刑期が)短い」

 と怒りをあらわにしている。

週刊朝日 2016年10月14日号