言葉の奥にあるものを伝える訓練をするために、最近は、ナレーションの仕事にも積極的になった。サラリーマンの昼食をレポートするNHKの番組「サラメシ」のナレーションは、今年で6年目だ。

「デビュー当時、小林桂樹さんに、『貴一は、王道を歩け』と言われたことがあります。その発言の意味が、世の中の大半を占める男、即ちサラリーマンを演じられる男であれという意味だと気づいたのは、30歳を過ぎてからでした(苦笑)。桂樹さんは、『これからはアウトローの時代が来る。でも、世の中に正統派がいなくなったら、アウトローも存在しなくなる。正統派がいて、アウトローがいる、正義があって悪がある、それが役者の仕事だ。正統派とは、評価されにくいものだ。棘(いばら)の道かもしれないけれど、王道を行け』とおっしゃった。だから、サラリーマンを応援する番組のナレーションを引き受けたのは、桂樹さんのかつてのアドバイスに対する、僕なりの返答です」

 ふたりものがたり「檀」では、宮本信子さんとのリーディングに挑む。台詞をまず疑ってかかる中井さんが、台本を読み、「やりたい」と直感した。その魂が、舞台上で音になって響く。

週刊朝日  2016年6月24日号