そんな勉強熱心な北村に転機があった。「100歳まで吹き続けるには、基礎から学ぶ必要がある」と、50代の時に年下のクラリネット奏者、村井祐児に弟子入りし、クラシック音楽を学ぶことを決意する。

「村井先生がちょうどドイツから日本に帰ってこられて『東京芸術大学に就職しました』って言うんですよ。『それなら教えてください』と言ったら、『嫌です』って言われました(笑)。『何とかお願いします』と言ったら、『ちょっと見てみましょうか』と言ってくれたんです。最初、モーツァルトか何か教えてくれるかと思ったんですけど、それが全然違って、『蝶々(ちょうちょう)』を吹かされました(笑)。アタマの『ソミミ ファレレ』だけですよ。『発音が悪い。音が崩れている』と言われて、次のフレーズの『ドレミファソソソ』までいくのに3カ月以上掛かりました。初めは冗談じゃないと思ったんだけど、この先生を逃したら他にはいないと思ったんですよ(笑)」

 村井先生との出会いによって、クラシックの世界とも交流が生まれ、現在はクラシック音楽をプレイする機会も増えている。

「クラシックは決められた通りに吹く必要があるので、誤魔化しがきかないんですよ。でも、その中でいかにうまく歌うか……、そこが魅力でもあるんですよね。ジャズの方は楽しみながらできるけれど、クラシックは楽しんでいる余裕がないんですよ(笑)。クラシックが楽しんで吹けるようになるには100歳過ぎないとダメかなと思います(笑)」

 まだまだクラリネットへの飽くなき挑戦が続く北村だが、その魅力を尋ねると、こう笑った。

「感情が最も入れやすい楽器の一つだと思いますね。トランペットのようなブラス楽器は弱く吹くのは凄く難しいので、目いっぱい吹く人が多いですけど、クラリネットのようなリード楽器はピアニッシモ(小さな音)の魅力があるんですよ。それだけに面白くてしょうがないですね。まだ勉強しなければいけないことがいっぱいあって、どんどんやりたいことが出てくるんですよ。いい楽器を選んじゃったと思いますね」。(聞き手・Jun Kawai)

週刊朝日 2016年5月20日号