疾患を阻害する防御因子として注目される物質の一つが、脂肪細胞から分泌される血中の物質「アディポネクチン」だ。脂肪細胞から分泌され、ホルモンのような働き方をする物質は多数ある。善玉と悪玉に分類され、アディポネクチンは善玉の代表格。糖尿病の発症や動脈硬化、炎症反応を抑える作用がある。

 大阪大学大学院の前田法一准教授は、一般的にアディポネクチンの濃度が高い人は糖尿病や動脈硬化になるリスクが低いと指摘し、こう話す。

「血管の内側の内皮細胞がたばこやストレスなどで傷つくと、糖尿病や動脈硬化のリスクが高まります。アディポネクチンは、その内皮に停留して、血管のコート剤のような役割を果たしているようです」

 百寿総合研究センターが百寿者の女性のアディポネクチン濃度を調べたところ、20代の女性より2倍近く高いことがわかった。

 アディポネクチンは、長寿を司る夢の物質なのか。

 広瀬教授が言う。

「アディポネクチンは、ある段階まで、糖尿病や動脈硬化を防ぎ、長寿をサポートする防御因子と考えられます。ところが、アディポネクチン濃度の高い中高年の人だと、むしろ死亡率や心疾患の罹患率が高くなるという結果もあります。百寿者の場合、アディポネクチンの濃度が高くても低くても、余命は同じでした」

 百寿者の場合、アディポネクチンの濃度と余命は関係がないと言える。

 ただ、やはり脂肪細胞から分泌される「レプチン」(善玉)の濃度が高いと長生きすることはわかった。レプチンは食欲と代謝の調整を司り、肥満や体重増加を抑制すると言われる物質だ。一方、悪玉の「TNF−α」の濃度が低いと長生きすることも判明。百寿総合研究センターの新井康通専任講師がこの三つの物質と百寿者の余命の関係を調べたところ、レプチンとアディポネクチンが高く、TNF−αが低い人ほど長生きをし、身体機能も高いという結果が出たという。

 栄養状態を表す指標として知られるたんぱく質「アルブミン」はどうか。一般に、アルブミン値が低下すれば筋力も低下し、3.5g/dlを下回れば余命が約1年になるという資料もある。だが、アルブミンの値も、百寿者の場合、事情が変わってくるという。

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