新年を迎え野球選手の自主トレも本格化し始めた。西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、新しい理論にとらわれず自分にとって意味のある練習をして欲しいという。

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 読者の皆様、明けましておめでとうございます。

 今年は8月に国際オリンピック委員会(IOC)の総会がある。2020年東京五輪で野球・ソフトボールが追加競技に決まれば、野球界は大きな節目を迎えることになる。プロ野球のOBとしても、何らかの形で協力していきたい。

 さて、新年を迎えると、野球の自主トレの報道が目立つ。最近はハワイやグアムを中心に海外で自主トレをする選手が増えた。悪いことではないよ。温暖の地のほうが、しっかりと体づくりができ、故障のリスクが減る。

 ただ、隔世の感はあるよな。選手の年俸が上がり、スター選手は2億、3億円と手にする。自分の体に投資できる資金も増えた。若手を連れていって、食費や滞在費を出す主力選手もいる。私が自主トレでトレーナーを伴ったのは入団して15年近く経過してからだった。若いころに自費でトレーナーを呼ぶという発想なんてなかった。時代は確実に変わっている。

 今やトレーニングの質も方法論も多岐にわたる。私は若いころ、大分や佐賀・唐津などに行き、いつも5キロ前後のロードワークをしていた。ゴルフ場や海岸線を走り、その後はダッシュ。

 腹筋、背筋も専用の器具で鍛えることはなかった。今では、腹筋一つにしてもいろんな角度から筋肉を鍛えられる。その分、選手もやるべきことが増えた。各種サプリメントもあるし。

 ただ、いくら方法論が増えても変わらないことはある。それは自分の体のことをしっかりと把握することだ。トレーナーやコーチに言われるままに体を動かすだけでは、効果は薄い。

 
 キャンプに入っても同じ。投手であれば、「キャンプで1千球以上」といった方針を決めることがあるが、選手個々で目的は違う。投球フォームを固めるのか、球種を磨くのか。それぞれが、自分の目的に合った「意味のある一球」を投げることが大切なんだ。

「前日に30球しか投げなかったから今日は多めに投げよう」とか、「他のみんながブルペン入りしているから自分も」とか、数字合わせの投球練習は意味がないよ。私が西武の監督時代には、投手に「途中で球数を捕手に聞くな」と指示した。投手コーチはノートに球数を記すが、それはあくまで参考程度にしなければいけない。

 自分の体を知れば、練習にもメリハリがつく。選手それぞれにルーティンはあるが、本当に身になっているものかを常に自問自答してほしい。新しい理論を採り入れたというだけで満足していないか。情報過多の時代だからこそ、取捨選択が必要。それができるかどうかで野球人生が変わることを強く意識してほしい。

 エースであれば、完投数や年間200イニング投げることを念頭に置いてトレーニングをしてほしい。大リーグでは昨年、28人が200イニングに到達した。30球団あるから、1球団に1人近くいる計算だ。一方、日本は大野(中日)と前田健(広島)の2人だけ。このままだと、200イニングは夢の数字になってしまいそうだ。いくら分業制が進んでいるとはいえ、エースなら、試合の勝敗が決するまで投げる気概を持ってほしい。

週刊朝日 2016年1月22日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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